10月30日

スワード博士の日記

十月三十日午前七時

もうガラツィに近いので、後で書く時間がないかもしれない。今朝の日の出は、僕たち全員が心配しながらも待ち望んでいたものだった。ヴァン・ヘルシングは、催眠術をかけるのが難しくなってきていることを知って、いつもより早めに催眠術をかけ始めた。しかし、その効果は定刻まで出ず、さらに困難な時を経て、彼女が従ったのは日の出のわずか一分前だった。教授がすばやく質問すると、彼女も同じようにすばやく答えた。

「すべてが暗いです。私の耳の高さで水がうねるのが聞こえ、木と木がきしむ音がします。遥か遠くで牛が鳴いています。もうひとつ、奇妙な音がします。まるで──」

彼女は言葉を止め、顔を白くし、その後さらに白くした。

「続けて、続けて! 話すんだ、これは命令だ!」

ヴァン・ヘルシングは苦悶の声で言った。その目にも絶望が宿っていた。昇った太陽が、ハーカー夫人の青白い顔さえも赤く染めていたからだ。彼女は目を見開いた。僕たちは皆、彼女が優しく、そして一見きわめて平然としてこう言ったので驚かされた。

「教授、なぜ私にできないとわかっていることを頼むんですか。私は何も覚えていないのに」

そして、僕たちが驚いた顔をしているのを見て、彼女は困った顔で各人を向きながら言った。

「私は何を言ったんでしょう。何をしたのでしょう。何も知らないんです。ただ、ここに横たわって、半ば眠っているときに、教授が《続けて、続けて! 話すんだ、これは命令だ!》と言うのを聞いただけです。まるで私が悪童みたいに命令するのを聞いて、とてもおかしく思えたんです!」

「ミナ奥様」彼は悲しげに言った。「もし証拠が必要であれば、それこそが私があなたを愛し尊敬している証拠なのだ。あなたのためにいつになく真剣に語った言葉が──従属を誇るような人に命じる言葉が、あなたにとって奇妙に思えるのだとしたら!」

汽笛が鳴り響いた。僕たちはガラツィに近づいている。僕たちは不安と熱意で燃えるようだ。

ミナ・ハーカーの日記

十月三十日

電信で部屋を予約してあるホテルまで、モリスさんが私を案内した。彼は外国語が話せないので、この役目に最も適した人であった。ヴァルナのときと同じように任務が割り振られたが、ゴダルミング卿だけは副領事のところに行った。彼の地位が、役人に対するある種の保証として即座に役立つかもしれず、私たちは極めて急いでいたからだ。ジョナサンと二人の医師は、ザリーナ・キャサリン号の到着を確認するため、代理人の元へ出向いた。

その後。

ゴダルミング卿が帰ってきた。領事は不在で、副領事は病気のため、日常業務は事務員が担当していたそうだ。事務員は非常に親切で、自分のできることは何でもやると言ってくれたとのこと。

ジョナサン・ハーカーの日記

十月三十日

九時に、ヴァン・ヘルシング博士とスワード博士と僕は、ロンドンのハップグッド社の代理人、マッケンジー氏とスタインコフ氏に電話をした。彼らは、ゴダルミング卿が電報で送ってもらえるように要請した、ロンドンからの電報を受け取っていた。あらゆる礼節を尽くすようにと頼む内容の電報だ。彼らは親切で礼儀正しく、すぐに我々をザリーナ・キャサリン号に乗せてくれた。その船は川の港に錨を下ろしていた。そこで我々はドネルソンという名の船長に会い、彼の航海について話を聞いた。彼は、これまでの人生でこれほど順風満帆な航海はなかったと言った。

「たまげたね!」と彼は言った。「心配になっちまいましたよ、帳尻合わせに何かひでえことが起こってツケを払わされるんじゃないかってね。ロンドンから黒海まで順風で航海するなんざこの上ないことで、悪魔その人が自分のために満帆に風を吹いてるんじゃねえかってくらいでしたよ。それに、そんときは何も見えなくってね。俺らが他の船や、港や、岬に近づくと、霧が降りてきて俺らと一緒に動いてさ、その霧が晴れて見回すと、なんも見えなかったってわけ。ジブラルタル海峡は信号が出せないまま通り過ぎたね。で、ダーダルネル海峡について通行許可を受け取るのに待つことになるまで、他の船から呼びかけられもしなかったね。最初は俺にも、霧が晴れるまで帆を緩めて旋回しようかって考えがよぎったんだがね。でも、もし悪魔が俺らに黒海に速くいかせたいなら、俺らがどうしようとそうなるだろうって思ってね。速く着いたところで、荷主に迷惑をかけるわけでもなし、貨物がダメになることもなし。そんで、目的を遂げようとしてやがる悪魔も、邪魔さえしなけりゃ俺らに感謝するだろうしね」

この単純さと巧妙さ、迷信と商業的論理とが混合した話は、ヴァン・ヘルシングの心を動かしたらしく、ヴァン・ヘルシングはこう言った。

「友よ、その悪魔は世間で思われているよりずっと利口なんだ。そして、奴は同じく利口な者に会えばちゃんとその人がわかるのさ!」

船長は、この賛辞を快く受け止め、さらに続けた。

「ボスポラス海峡を過ぎると、船員たちが不平を言い始めた。そのうちの何人かはルーマニア人で、ロンドンから出発する直前に、奇妙な顔つきの老人が船上に置いた大きな箱を船外に投げ出すように頼んできた。そのルーマニア人たちがその老人を見るとき、邪悪な目を防ぐまじないの仕草として、指を二本立ててるのを見かけたよ。たまげたね! で、外国人の迷信は完全に馬鹿げてんね! すぐに仕事に戻らせたよ。まあ、ちょうど霧が俺らに迫ってきたとき、俺も彼らと同じように、何かを少し感じたね。それが大きな箱のせいだとは言わねえがね。さて、俺らは出発し、霧は五日間晴れなかったから、ただ風に任せた。もし悪魔がどこかに行きたかったら──まあ、その通りに連れてってくれるだろうし、そうじゃなかったとしても、とにかく俺らがしっかり見張りゃいいってことでね。案の定、ずっと水深がある良好な航路を保ち続けることになった。で、二日前、朝日が霧の中から差し込んできたとき、俺らはちょうどガラツィの対岸にある川の中にいることに気づいたのさ。ルーマニア人は非常に大騒ぎでね、俺につべこべ言わず箱を取り出して川に投げ捨てろと言ってきた。俺は、それについてはハンドスパイクで脅しつけて強引に合意を取らなけりゃならなかった。そんで、彼らの最後の一人が頭を抱えて甲板から立ち上がったときには、俺は、邪悪な目であろうとなかろうと、荷主の財産と信頼はドナウ川よりも俺の手中にある方が良いと彼らに納得させてたんよ。彼らは甲板に箱を引っ張り出して、投げ入れる準備までしてた。その箱にはヴァルナ経由ガラツィ宛って書かれてたんで、港で荷下ろししておさらばするまで、甲板に置いておこうかと思った。その日は大した荷下ろしもできず、錨を下ろして夜を明かした。しかし翌朝、良い天気で風も吹いてたが、日の出の一時間前に一人の男が、英国から彼に宛てて書かれた、ドラキュラ伯爵宛の箱の受け取りを命じられた書面を持って乗船してきた。確かに、その荷物は彼の手に渡るようになってた。彼は書類をちゃんと持っていたし、俺もあのクソ箱から解放されて嬉しかったね。俺も不安になり始めていたからよ。もし悪魔が船に荷物を積んでいたとしたら、アレに他ならねえと思うね!」

「受取人の名前は何ですか」

ヴァン・ヘルシング博士が熱心さを抑えて尋ねた。

「すぐ教えてやるよ!」

彼はそう答え、船室に降りて、《イマニュエル・ヒルデスハイム》と署名された領収書を出してきた。住所はブルゲンシュトラッセ【訳注:Burgenstrasse。城街道の意】十六番地だった。船長はそれ以上知らないとわかったので、僕たちは礼を言いその場を後にした。

僕たちはヒルデスハイムを事務所で見つけた。彼はどちらかというとアデルフィ劇場のようなヘブライ人で、羊のような鼻をして、フェズ【訳注:fez。いわゆるトルコ帽】を被っていた。彼の話は──ちょうど僕たちが句読点を打つように──金貨で強調されていた。少しの交渉で、彼は知っていることを僕たちに話した。この情報は単純ながら重要なことだった。彼はロンドンのドゥ・ヴィル氏から手紙を受け取り、税関を避けるためにできれば日の出前に、ザリーナ・キャサリン号によりガラツィに到着する箱を受け取るようにと書かれていたのだ。この箱は、川を下って港に来るスロバキア人と取引しているペトロフ・スキンスキーという人物に預けることになっていた。ヒルデスハイムはこの仕事の報酬として英国紙幣を受け取り、それをドナウ国際銀行で金と交換した。スキンスキーがヒルデスハイムのところに来たとき、運輸費を節約するためにスキンスキーを船に連れて行き、そのまま箱を渡したのだ。彼はそれしか知らなかった。

その後、スキンスキーを探したが、見つからなかった。彼の隣人の一人は、彼に愛想を尽かしているようであり、二日前にどこかへ行ったきり、誰もその行方を知らないと言った。このことは、彼の大家が、家の鍵と英国紙幣の家賃を、使いを経由して受け取っていたことからも裏づけられた。これが昨夜の十時から十一時頃のことだ。僕たちは再び膠着状態に陥った。

僕たちが話していると、人が一人で走ってきて、スキンスキーの死体が聖ペテロ教会の教会墓地の塀の内側で発見され、喉がまるで野生の動物に引き裂かれたようだったと、息を切らして訴えた。僕たちの話し相手たちは、その惨状を見るために走って行った。女性たちは「これはスロバキア人の仕業だよ!」と叫んでいた。僕たちはこの件に巻き込まれて引き止められてはなるまいと、急いでその場を離れた。

帰宅してからも、はっきりした結論は出なかった。箱は水路でどこかに運ばれていっているだろうとは思ったが、それがどこなのかは、これから調査する必要がある。重い気持ちで、僕たちはホテルのミナのもとに帰ってきた。

僕たちは一同に会した時、まず、ミナをもう一度話し合いに加えるための相談をした。事態は切迫していた。ミナを加えることは、危険ではあるものの、せめてもの希望であった。その第一段階として、僕は彼女との約束から解放されたことになる。

ミナ・ハーカーの日記

十月三十日、夕刻

皆さんとても疲れていて、消耗して意気消沈していたので、休息を取るまで何もできなかった。なので、三十分ほど横になるように頼み、その間に今までのことをすべてタイプ打ちした。《トラベラーズ》タイプライターを発明した方と、このタイプライターを買ってきてくださったモリスさんにとても感謝している。もしもペンで書いていたら、この仕事をする上でかなり途方に暮れてしまっただろう。

全て打ち終えた。哀れな、愛しいジョナサン。どんなに苦しんだことだろう、今どんな思いをしているのだろう。彼はソファに横たわり、ほとんど息をしていないように見え、全身がぐったりとして見受けられる。眉を寄せ、顔は苦痛で引きつっている。哀れな人、おそらく考え込んでいるのだろう。彼の顔が考えに集中して歪んでいるのを見てとれる。ああ! 少しでも役に立てればいいのだけれど。できる限りのことをするつもりだ。

ヴァン・ヘルシング博士に頼んで、私がまだ読んでいない書類を全部持ってきてもらった。彼らが休んでいる間に、すべて熟読することとする。もしかしたら何らかの結論を導き出せるかも。教授に倣って、目の前の事実に偏見を持たずに考えるようにしよう。

神の導きのもと、ある発見ができたみたい。地図を手に入れ、目を通すことにしよう。

自分が正しいと、これまで以上に確信が持てた。新しく結論が準備できたので、皆さんを集めて読んでみよう。皆さんなら正しく判断できるだろう。正確であることが望ましく、さらには一分一秒がきわめて貴重だ。

ミナ・ハーカーの覚書(ミナ・ハーカーの日記に挟まれている)

疑問の出発点──ドラキュラ伯爵の課題は、自分の居場所に戻ることだ。

 (a)彼は何者かによって運ばれる必要がある。これは明白だ。もし望むように自分を動かす力があれば、人間の姿か、オオカミか、コウモリか、あるいは他の姿で、自力で故国に戻れたはずだ。夜明けから日没まで、木箱の中に閉じ込められている間、無力な状態でいなければならなかったことから、彼が発見や妨害を恐れていることも明らかだ。

 (b)彼はどのように運ばれるか。──ここでは消去法が有効だろう。陸路、鉄道、水路?

1.陸路。──この方法は、特に都市を離れるときに、果てしない困難がある。

 (x)人々がいる。人々は好奇心が強いので詮索するだろう。箱の中に何が入っているかについての示唆、推測、疑念は、そのまま彼の破滅に繋がるだろう。

 (y)通行するべき税関職員や入市税関職員【訳注:octroi】がいる。または、いる可能性がある。

 (z)追っ手が来るかもしれない。これが彼の最大の恐怖だ。彼は裏切られるのを防ぐために、彼の犠牲者さえも可能な限り切り離した──これは私のことだ!

2.鉄道。──箱を管理する者がいない。遅延する可能性もある。敵に追われている以上、遅延は致命的だ。確かに夜間でも逃げられるかもしれないが、見知らぬ土地で飛んでいける逃げ場もないまま放置されてしまったら、どうなることだろうか。これは彼の望むところではないし、危険を冒すつもりもないだろう。

3.水路。──これは、ある面では最も安全な方法であるが、別の面では最も危険だ。水上では、夜以外は力が出せない。夜でも、霧と嵐と雪とオオカミを呼び出せるだけだ。もし難破したら、流れる水が無力な彼を飲み込み、まさしく遭難することとなる。彼は船を岸まで操舵させることが可能だった。しかし、到着したのが非友好的な土地で、彼が自由に動けないところであれば、彼の立場はまだ絶望的なものだろう。

私たちは、彼が水の上にいたことを記録から知っている。なので、私たちがしなければならないのは、どの水路を移動したかを特定することだ。

まず、彼が今まで何をしたのかを正確に把握することが必要だ。そうすれば、彼のこの後の目的が何かがわかるだろう。

第一。──彼のロンドンでの行動は基本計画の一部だ。時間に追われて可能な範囲で手配しなければならなかったときの行動とは、区別しなければならない。

第二。──私たちが知っている事実から推測できる限りで、この土地で何をしたかを理解する必要がある。

第一の問題に関して、彼は明らかにガラツィに到着するつもりだった。英国から脱出する手段を私たちに確認されないよう、私たちを欺くための明細をヴァルナに送ったのだから。彼の差し迫った唯一の目的は、脱出することだった。その証拠に、イマニュエル・ヒルデスハイムに送られた指示書では、日の出前に箱を荷下ろしし、持ち帰るよう指示されている。また、ペトロフ・スキンスキーへの指示もある。これらは推測に過ぎないが、スキンスキーがヒルデスハイムのもとに来た以上、スキンスキーへの何らかの手紙か伝達があったに違いない。

彼の計画が成功したのはわかっている。ザリーナ・キャサリン号は驚異的な速さで航行した──ドネルソン船長の疑惑を引き起こしたほどだ。しかし、彼の迷信と彼の機転が伯爵の策略にはまり、彼は霧の中を順風と共に走り抜け、周りが見えないままにガラツィに到着した。伯爵の手配がうまくいったことが証明された。ヒルデスハイムは箱を荷下ろしし、スキンスキーに渡した。スキンスキーはそれを受け取った──ここで手がかりが途絶えた。箱は水上のどこかにあり、今も移動していることだけはわかる。もし税関や入市税関があったとしても、回避されたのだろう。

第二の問題に関して、伯爵が到着後にガラツィの陸上で何をしたか考えよう。

箱は日の出前にスキンスキーに渡された。日の出とともに、伯爵は本来の姿で出現できる。では、なぜスキンスキーがこの仕事の手伝いに選ばれたのだろうか。夫の日記には、川を下って港で商売をするスロバキア人とスキンスキーは取引をしていると書かれている。そして、殺人はスロバキア人の仕業だという発言は、スキンスキーの属する階級に対する総体的な感情を示しているのだ。伯爵は孤立した存在を望んでいた。

私の推測は次のとおりだ。伯爵はロンドンで、最も安全で目立たない方法として、水路で自分の城に戻ることに決めたのだ。ロンドンに向かう際、彼はティガニーによって城から運ばれ、おそらくティガニーがスロバキア人たちに荷物を渡し、スロバキア人たちがその箱をヴァルナへ運び、そこでロンドンへ向けて出荷されたのであろう。したがって伯爵は、この業務を手配できる人物を知っていたのだ。箱が陸地に下ろされると、日の出前か日没後に彼は箱から出てきて、スキンスキーに会い、箱を川上へ運送するにあたりどう手配すべきか指示した。これが終わって、すべてがうまくいったとわかると、彼は自分の痕跡を消そうと、自分の代理人であるスキンスキーを殺害したのだ。

私は地図を調べ、スロバキア人が上流に行くのに最も適した川は、プルト川【訳注:Pruth。河川】かシレト川【訳注:Sereth。河川】のどちらかだと突き止めた。タイプ書きした文中で、私がトランス状態の時に、牛の低い声と、水が耳の高さでうねる音と、木のきしむ音を聞いたと読んだ。箱の中の伯爵は、甲板のない小舟に乗って川を進んでいたのだ。土手が近く、流れに逆らっていることから、おそらくオールか棹で漕いでいるのだろう。川を下っていれば、このような音はしない。

もちろん、シレト川でもプルト川でもない可能性は払拭できないが、この路線で考査してみよう。この二つの川のうち、プルト川の方が航行しやすいが、シレト川はフンドゥにて、ボルゴ峠を回り込むビストリッツァ川と合流する。この川の流れは、水路で行ける範囲で明らかにドラキュラ城に近い。

ミナ・ハーカーの日記(続き)

十月三十日

私が読み終わると、ジョナサンは私を腕に抱き、キスをした。他の人たちは私の両手を握って揺さぶり続け、ヴァン・ヘルシング博士が言った。

「我々の愛するミナ奥様は再び我々の先生となられた。彼女の目は、我々の盲点を見通す。今、我々は再び軌道に乗り、今度こそ成功を遂げるやもしれぬ。敵は今が最も無力な時だ。もし昼間に水上で彼に迫ることができれば、我々の任務は完了するだろう。彼は先行しているが、急ぐ力がない。なぜなら、運び手たちに疑われないように、自分の箱から離れることができないからだ。運び手が疑念を持つことは、彼が川に投げ入れられ滅びることにつながる。このことを彼は知っていて、急ごうとしないのだ。さあ、男たちよ、軍事会議を行おう。今ここで各人全員が何をすべきか計画せねばなるまい」

「私は小蒸気船で彼の後を追うことにしよう」とゴダリング卿が言った。

「なら俺は、万が一彼が上陸した時のため、馬で土手から追う」とモリス氏。

「よろしい!」と教授は言った。「どちらも良い手だ。しかし、どちらも一人で行ってはならない。必要な際に、力に打ち勝つためには、力が必要だ。スロバキア人は強くて荒っぽいし、粗暴な武器を持っている」

男性方は皆、微笑んだ。各自ちょっとした武器を持っているからだ。モリス氏は次のように言った。

「ウィンチェスター銃を何丁か持ってきた。大人数に対しては結構役に立つ。オオカミがいるかもしれないしな。みんな覚えているかわからねえが、伯爵は他にも色々用心していた。ハーカー夫人にはよく聞こえず理解できなかっただけで、他の人間に何かしらの頼み事をしてたかも知れない。俺たちはあらゆる点で準備万端でなきゃならない」

スワード博士は次のように言った。

「僕がクインシーと一緒に行った方がいいだろう。僕たちは一緒に狩りをすることに慣れてるし、僕たち二人がしっかり武装すれば、何が起きても対応できるはずだ。アート、君も一人じゃダメだぞ。スロバキア人と戦うことになるかもしれない。そして、運の悪い一突きで──彼らが銃を持っているとは思えないからな──僕たちの計画はすべて台無しになるかも。今回は絶対に失敗してはならない。伯爵の頭と体を切り離し、再び生まれ変わることができないと確信するまでは、休んではならない」

彼はジョナサンを見て話し、ジョナサンは私に目をやった。哀れな彼が、心の中で葛藤しているのが分かった。もちろん、彼は私と一緒にいたかったのだろう。しかし船便での追跡班こそが、倒す可能性が高い班なのだ──つまりは──その──ヴァンパイアを。(どうして私はこの単語を書くのにたじろいだのだろう?)彼はしばらく沈黙し、その沈黙の間にヴァン・ヘルシング博士が話した。

「ジョナサン君、これは二つの理由で君のための役目だ。第一に、君は若く勇敢で戦闘もできる。これらすべての力が、最終的に必要とされるかもしれない。第二に、君と君の妻に災いをもたらした者──物──を破壊するのは君の権利だ。ミナ奥様のことは心配無用、よろしければ私がお世話しよう。私は年寄りだ。私の足は昔ほど速くない。それに、長い距離を馬で走ることも、必要なだけ追跡することも、命を奪う武器で戦うことも、慣れていない。しかし、私は他の方法で役に立てるし、他の方法で戦うことができる。そして必要とあらば、若い男たちと同じように死ぬこともできる。さて、私の考えを言っておこう。ゴダルミング卿とジョナサン君がそのとても速い小蒸気船で川を上る間、そしてジョンとクインシーが彼が上陸するかもしれない土手を守っている間に、私はミナ奥様を敵の国の中心部に連れて行くつもりだ。老狐が箱に縛られ、陸に上がれないまま流れる小川に浮かんでいる間──スロバキア人の運び屋が恐れのままに彼を見殺しにしないよう、棺桶の蓋を閉めたままにしている間──我々は、ビストリッツからボルゴを越える、かつてジョナサンが進んだ道を進み、ドラキュラ城への道筋を見つけることにしよう。ここで、ミナ奥様の催眠術の力が必ず役に立つ。そして、あの運命的な場所付近での最初の日の出の後──ミナ奥様の力がなければ馴染みのない暗い土地ではあるが──道を見つけることができるだろう。やるべきことは多い。あの毒蛇の巣が消滅するよう、他の場所も浄化せねばなるまい」

ここでジョナサンが熱く口を挟んだ。

「ヴァン・ヘルシング教授、あなたは、悪魔の瘴気で穢された哀れなミナを、死の罠にかけるつもりですか。全世界にかけて許せない! 天国や地獄にかけて許せません!」

彼は一分間ほとんど言葉を失って、それから続けた。

「どんな場所か知ってるんですか。地獄めいた悪魔の巣窟を見たことがあるんですか──月の光の影がおぞましくうごめき、風に舞う塵の一片一片が人を貪り食う怪物の胚なんですよ。ヴァンパイアの唇が喉に触れるのを感じたことがありますか」

ここで彼は私の方に振り向き、私の額を見ると、腕を振り上げて叫んだ。

「ああ神よ、僕たちはどうしてこのような恐怖に見舞われているのでしょう!」

そしてジョナサンは苦痛のあまりソファの上に倒れ込んだ。教授の、澄んだ穏やかな話し声は、大気に響き渡るようで、私たちを落ち着かせた。

「友よ、ミナ奥様をあの恐ろしい場所から救いたいからこそ行くのだ。神は、彼女を城に連れて行くことを禁じている。あそこではミナ奥様の目に触れないように、仕事を──残酷な仕事をしなければならないからね。ここにいるジョナサン以外の男たちは、あの場所を浄化するためにしなければならないことを自らの目で見てきた。我々がひどい窮地に立たされていることを忘れるでない。もし伯爵が今回我々から逃げたら──彼は強くて巧妙で狡猾なのだ──一世紀の間、眠ることを選ぶかもしれない。そしてやがて、我々の愛する者が」──彼は私の手を取った──「彼のもとに行き、彼の相手をするだろう。ジョナサン、君が城で見た伯爵以外の人たちのように。君は彼女たちがほくそ笑む唇のことを話してくれたね。伯爵が投げた動く袋を握りしめた彼らの下卑た笑いを聞いただろう。君は身震いしたが、それも当然のことだろう。君をこんなにも苦しめることを許してくれ、でも必要なことなのだ。友よ、私が命を賭する任務には、切実に必要性なことなのだ。もし、この中の誰かがあの場所に行かねばならんのだとしたら、この私こそが彼らの相手をすることになるだろう」

「お好きになさってください」ジョナサンは全身を震わせるほどの嗚咽を漏らしながら言った。「僕たちは神の手中にいるのだから!」

その後。

勇敢な男性方の働きぶりを見て、私は安心した。男性とはこんなに真剣で、真実で、勇敢なのだから、女性が男性を愛するのは至極当然のことだろう! さらに私は、お金の持つ素晴らしい力についても考えさせられた! お金が適切に使われたときにできないことなどあるのだろうか。そして、卑しく使われた時に何がされ得るのか。ゴダルミング卿がお金持ちであり、同じくお金をたくさん持っているモリス氏と共に自由にお金を使ってくださることに感謝した。彼らが出し惜しみをしていたら、あと一時間もしないうちに、こんなに早く、こんなに充実した装備で、この小さな冒険に出発することはできなかっただろうからだ。それぞれの役割を決めてからまだ三時間も経っていないのに、ゴダルミング卿とジョナサンがすぐにでも出発できるように、蒸気が出ている素敵な船がある。スワード博士とモリスさんは、よく調教された六頭の良い馬を持っている。私たちは、持てる限りのあらゆる種類の地図と道具を持っている。ヴァン・ヘルシング教授と私は、今夜十一時四十分の列車でヴェレスティに出発し、そこで馬車を調達してボルゴ峠に向かう予定だ。馬車と馬を購入するため、まとまったお金を持参する。他に信頼できる人がいないので、自分たちで馬車を操縦する予定だ。教授は多くの言語を知っているので大丈夫だろう。私たちは皆、武器を持っている。私でさえも大口径のリボルバーを持っている。ジョナサンは、私が他の人と同じように武器を持ってないと気が済まないのだ。でも残念なことに、私は他の人が持っているある武器を持つことができない。額の傷がそれを禁じているのだ。親愛なるヴァン・ヘルシング博士が、オオカミ相手であれば私は完全武装しているようなものだと言って慰めてくれる。天気は刻々と寒くなり、警告のように雪が舞っている。

その後。

愛しい人にさよならを言うのにとても勇気が必要だった。もう二度と会わないかもしれないのだ。勇気を出して、ミナ! 教授が私をじっと見ている。彼の視線は警告だ。今は涙を流してはならない──神が喜びの涙を流させるのであれば別だが。

ジョナサン・ハーカーの日記

十月三十日、夜

小蒸気船の炉の扉から差し込む光の中でこれを書いている。ゴダルミング卿が火入れをしている。彼は何年も前からテムズ川とノーフォーク・ブローズで自分の船を使っているので、この仕事には熟練している。僕たちの計画に関しては、ミナの推測が正しく、伯爵が城に戻るために水路を選ぶとしたら、シレト川とその合流点のビストリッツァ川だろうと最終判断した。僕たちは、北緯四七度あたりのどこかが、川とカルパチア山脈の間の国を横断する場所として選ばれただろうと推測した。夜中に速度を出して川を走ることに怖気付きはしなかった。水量が豊富で、川幅も蒸気を出せるほど充分に広いので、暗闇の中でも楽に走れる。ゴダルミング卿は、今は一人が見張りをすれば充分だから、しばらく寝ていろと言う。でも眠ることができない──愛しい人に恐ろしい危険が迫っているのに、そして彼女があの恐ろしい場所に向かっているのに、眠れるわけがない。唯一の慰めは、僕たちは神の手に委ねられているということだ。その信仰があれば、生きるより死ぬほうが簡単になる。すべての悩みから解放されるからだ。モリス氏とスワード博士は、僕たちが出発する前に遠乗りに出た。彼らは右の土手を進んでいる。川の流れをよく見渡し、その湾曲に従わないよう、充分距離をとって高台を走ることになっている。最初の段階では、好奇の目で見られないように、二人の雇人が、全てで四頭いる予備の馬に乗って先導することになっている。間もなく雇人を解任することになっており、その後は自分達で馬の世話をすることになるだろう。僕たちが力を合わせる必要が出てくるかもしれず、その際は僕たちの全員が馬に乗る。鞍のひとつには可動式のホーンがあり、必要であればミナ用に簡単に調整できる。

僕たちは自然の中を冒険している。夜の不可思議な声を聞きながら、川の冷たさを肌で感じつつ、暗闇を駆け抜けると実感できる。知らない土地、知らない道、暗くて恐ろしい世界へ迷い込んでいくように思える。ゴダルミングが炉の扉を閉めている。

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