8月9日

デイリーグラフ紙からの切り抜き(ミナ・マレーの日記に貼付)

八月九日、ウィトビー

昨夜の嵐の中の奇妙な廃船入港の続報は、入港自体よりも驚くべきものであった。そのスクーナーはヴァルナ発のロシア船で、デメテル号と呼ばれていることがわかった。船はほとんど珪砂を底荷にしており、その他はわずかに積荷があるのみだった──つまり、土でいっぱいの大きな木箱が多くあるだけだ。この貨物はウィトビーの事務弁護士、クレセント七番地のS・F・ビリントン氏宛に輸送されていたが、今朝ビリントン氏が乗船し、託送された貨物を正式に受け取った。ロシア領事が船舶所有者の代理として、船を正式に所有し、すべての港湾使用料などを支払った。今日のウィトビーでは奇妙な本事件の話題で持ちきりであり、商務庁【訳注:Board of Trade】の役人は、既存の規則をすべて遵守しているかどうか、非常に厳格に見守っている。この問題も《九日間は不思議だが、その後忘却》【訳注:シェイクスピア『ヘンリー六世』】となるだろうから、彼らは明らかに、後に苦情が出るようなことがあってはならないと決意しているようだ。船が衝突したときに上陸した犬には、かなりの関心が持たれており、ウィトビーにおいて名のある動物愛護団体【訳注:SPCA(Society for the Prevention of Cruelty to Animals)】の構成員の何人かは、この動物に友好的であろうとしている。しかし、残念なことにその犬の姿は見つからず、町から完全に姿を消したようだ。もしかしたら、怖がって荒野に行き、そこでまだ怯えているのかもしれない。荒野にいる可能性を心配し、明らかに凶暴なこの犬が後々危険な存在になることを危惧する人もいる。今朝早く、テートヒル埠頭近くの石炭商が飼っていた大型の雑種のマスチフ犬が、飼い主の庭の反対側の道路にて遺体で発見された。争った跡があり、明らかに野蛮な相手と戦っていたようで、喉は引き裂かれ、腹部は野蛮な爪で切り裂かれたように開いていた。

その後。

貿易検査官のご好意により、デメテル号の日誌に目を通すことを三日間許可されたが、行方不明の船員の情報を除いては、特に興味深いことは書かれていなかった。最も興味深いのは、今日に審問で提出された、瓶の中から発見された文書だ。航海日記と瓶の文書の二つの文書の間で展開された物語よりも奇妙な物語に出くわしたことは、私は未だかつてない。隠蔽する動機がないので、これらの文書を使うことが許され、従って、操舵技術や船荷の監督に関する技術的な詳細を省いた全内容を書き写してお送りする。船長は青海原に入る前にある種の躁病にかかり、それが航海中も持続的に進行していたように見受けられる。この文章は、ロシア領事館の書記官が時間がない中で親切にも口述翻訳してくれたのを書き起こしたものなので、私の印象は当然話半分に受け取らなければならないが。

デメテル号航海記 ヴァルナ発ウィトビー着 

不思議なことが起こるので、上陸するまで正確に記録しておこう。記述日七月十八日。

七月六日

この日は、珪砂や土の入った箱など、積荷の搬入を終えた。正午に出航。東風強し。船員五人、航海士二人、料理人一名、あと私(船長)。

七月十一日

この日は、夜明けにボスポラス海峡に入る。トルコの税関職員が乗り込む。賄賂。問題なし。午後四時、航行。

七月十二日

この日は、ダーダネルス海峡を通過。さらなる税関職員と警備隊の旗艦。再び賄賂。将校の仕事は徹底しているが、素早い。速やかに出航したい。夜にエーゲ海に入る。

七月十三日

この日は、マタパン岬を通過。乗組員は何か不満があるようだ。怖がっているようだが、口には出さず。

七月十四日

この日は、乗組員について多少心配した。船員は皆、以前私と一緒に航海したことのある、しっかりした連中。航海士には何が悪いのか見当がつかず。船員はただ何かがあると告げ、十字を切るだけ。この日、航海士は船員の一人に腹を立てて殴った。激しい喧嘩になると思ったが、全員静か。

七月十六日

この日は、朝、船員の一人、ペトロフスキーが行方不明になっていると、航海士から報告。原因不明。昨夜八点鐘に左舷の番。アブラモフと交代したが、寝床には戻らず。船員たちは、以前にも増して陰鬱な表情をしていた。全員が、このようなことを予期していたと言ったが、何かが乗船している以上のことは言おうとしない。このような状況下、航海士は船員に立腹。問題が起こるのではと心配。

七月十七日

この日は、前日、船員の一人、オルガーレンが私の船室にやってきて、怯えた様子で、この船には知らない男が乗っていると思うと打ち明けた。当直中に風雨に見舞われ、甲板室の後ろに避難したところ、どの乗組員とも違う背の高い痩せた男が、通路を上がってきて、甲板に沿い前に行って、姿を消したのを見たそう。彼は用心深く後を追ったが、船首に着いても誰もおらず、ハッチもすべて閉まっていたそう。彼は迷信的な恐怖で狼狽しており、狼狽が広がるのが心配。それを和らげるために、今日、船首から船尾まで注意深く船全体を捜索することにする。

その後、乗組員全員を集め、船内に誰かがいると思っているようなので、船尾から船首まで捜索すると告げた。一等航海士は怒り、愚かなことであり、そのような愚かな考えに屈することは部下の士気に影響すると言い、自分は棍棒で部下を守るからと言った。彼に舵を取らせ、残りの者はランタンを持ち、皆一列に並び、隅々まで捜索を開始した。大きな木箱しかなく、人が隠れるような隙間はなし。捜索を終えた男たちは大いに安堵し、元気よく仕事に戻った。一等航海士は顔を顰めたが、何も言わず。

七月二十二日

この三日間、荒れた天候で、総員帆走に忙殺され、怯えている暇なし。みな恐怖を忘れているよう。航海士はまた陽気になり、皆仲良くやっている。悪天候の中で働く男たちを褒め称えた。ジブラルタを通過し、海峡を抜けた。万事順調。

七月二十四日

この船には破滅が待ち受けているようだ。すでに一人分足りず、荒れた天候の中で、ビスケー湾に入った。そして昨夜、また一人、行方不明になった。最初の男と同じように、彼は見張りから外れて、二度と姿を現さなかった。船員たちは恐怖のあまり動揺し、一人になるのが怖いので見張りを二人にしてほしいと訴え。航海士は立腹。彼や男たちが暴力を振るっての事態悪化を恐れる。

七月二十八日

地獄の四日間、大渦の中でたたき回されたよう、風は大荒れ。誰も眠れず。男たちは皆、限界まで疲弊。誰も向かえず、どう当直すればいいのかわからず。二等航海士が進んで舵取りと見張りをし、男たちに数時間の睡眠を取らせた。風は弱まった。海はまだ恐ろしいが、船がより安定しているため、マシになってきた。

七月二十九日

またしても悲劇。今夜、乗組員疲弊で二人体制になれず、一人での見張り。朝の見張りが甲板に上がると、操舵手以外誰もおらず。大声で叫ぶと、全員が甲板に上がった。徹底的に探したが誰もおらず。二等航海士がいなくなり、乗組員は動揺。私と航海士は、今後武装し、原因に関するあらゆる兆候を待つことに合意した。

七月三十日

昨晩。英国に近づいていることを喜ぶ。天候は良好で、すべての帆が張られている。疲れ果てて眠りについた。そして、航海士と操舵士が行方不明だと航海士に告げられ、目が覚めた。船を動かすために残されたのは、自分自身と航海士、そして他二人だけ。

八月一日

二日間霧が続き、帆も見えず。英仏海峡に着けば、救援信号を送るか、どこかに乗り込めると思っていた。帆を動かす人がおらず、風のまま走るしかない。再び帆を上げられないので、あえて下げないでいる。私たちは何か恐ろしい破滅へと流されているようだ。航海士は誰よりも意気消沈している。彼の強い性格が、内向きに自分に対して働いているようだ。男たちは恐怖を超え、最悪の事態を想定し、堅実に、忍耐強く働く。船員はロシア人、航海士はルーマニア人。

八月二日、真夜中

数分眠ったが、私の船室の外から叫び声を聞いて目が覚めた。霧の中で何も見えなかった。甲板に駆け上がり、航海士にぶつかった。叫び声を聞いて走ったが、人の気配はなかったと言う。もう一人いなくなった。神よ、我らを助け給え! 航海士によると、我々はドーバー海峡を越えたに違いない。男が叫ぶのを聞いたのと同時に霧が晴れ、ノース・フォアランドを見たからだ。つまり、私たちは今北海にいることになる。共に動く霧の中では、神だけが私たちを導ける。そして、神は私たちを見捨てたようだ。

八月三日

真夜中に、舵取りを助けに行くと、そこには誰もいなかった。風は安定している。その風に押されて、針路が取れない。しかしそのままにしておくわけにもいかず、航海士を大声で呼ぶ。数秒後、航海士はフランネルを着たまま甲板に駆け上がってきた。彼は目を見張り、やつれた様子だった。私は航海士の理性が失われたことを非常に恐れた。航海士は私に近づき、まるで空気に聞こえることを恐れているかのように、私の耳に口を近づけて、嗄れた声で囁いた。

「あれはここにいます、今わかりました。昨夜当直で見ました。人のようで、背が高く、痩せていて、ぞっとするほど青白かった。あれは船首で外を見ていた。私はその背後に忍び寄り、ナイフを刺したが、ナイフはあれの体を通り抜けた。空気のようにそこには何もなかった」彼はそう言うと、ナイフを手に取り、荒々しく空に突き刺した。そして、こう続けた。

「でも、ここにいるんです。船倉の中にいる、たぶんあの箱のどれかに入っているはずです。一箱ずつネジを外して見よう。あなたは舵取りを」そう言うと、唇に指を当て、警告するように目配せし、彼は下に降りて行った。風が強くなってきたので、舵を離れることができなかった。彼が道具箱とランタンを持って再び甲板に出てきて、前方のハッチから降りていくのが見えた。彼は気が狂っている、ひどく気が狂っている、彼を止めようとしても無駄だ。あの大きな箱を傷つけることはできない。あれは《土くれ》として登録されているのだから、あれをひっくり返したところで損害はない。だから私はここにいて、舵取りに気を配り、この覚書を書いている。ただ神を信じ、霧が晴れるのを待つしかない。そして、もし風が強くてどの港にも行くことができなければ、帆を切って動かず、救援の合図を送る。

もう終わりだ。航海士が落ち着いて出てくることを期待し始めた矢先──船倉で何かを叩いている音がしたし、作業すると心が落ち着くだろうから──ハッチから突然、驚愕の叫び声が上がり、私の血が凍りついた。まるで銃から撃たれたかのように、甲板に上がってきたのは、目を回し、恐怖で顔を引きつらせた、いかれた狂人であった。

「助けてくれ! 助けてくれ!」

そう叫びながら、彼は一面の霧を見渡した。恐怖は絶望に変わり、しっかりとした声で彼は言った。

「手遅れになる前にあなたも来た方がいいですよ、船長。奴はそこにいます。私は今、その秘密を知っています。海が私を救ってくれる、もうこれしかない!」

私が言葉を発する前に、あるいは彼を捕まえようと前進する前に、彼は舷側板に飛び乗り、わざと海に身を投げた。私も今となっては秘密を知ってしまった。この狂人が、男たちを一人ずつ海に突き落とし、今度は自分が飛び込んだのだ。神よ、お助けください! 港に着いたらこの恐怖をどう説明すればいいのだろう。港に着いたら! そんなことがあるのだろうか。

八月四日

まだ霧があり、朝日も届かない。私は船乗りだから日の出があることは知っているが、そうでなければ気づけないだろう。下に行く勇気はなく、舵を離れる勇気もなかった。だから一晩中ここにいたのだが、夜の薄暗がりの中で見たのだ──《彼》を! 神よ、次のように考える私をお許しください。航海士が船外に飛び出したのは正しかった。男らしく死ぬ方がよかった。青い水の中で船乗りらしく死ぬのに、誰も異議を唱えることはできない。しかし、私は船長であり、船を離れるわけにはいかない。この悪魔、この怪物を阻止する。私の力が衰えはじめたら、私の手を舵に縛り付け、彼──あれ──が触れないものも一緒に縛りつける。そうすれば、良い風が吹いても悪い風が吹いても、自分の魂と、船長としての名誉を守れる。衰弱しつつあるし、夜が近づいている。再び彼と会うことがあったとしても、行動する隙がないかもしれない。難破しても、この瓶が見つかれば、見つけた人は理解できるかもしれない。難破しなければ、すべての人が、私が自分の勤めに忠実であったことを知るだろう。神よ、聖母よ、聖人たちよ、自分の責務を果たそうとする哀れで無知な魂をお助けください。

もちろん、船長の死に関する判決は不審死となり、有罪無罪は評決されなかった。証拠となるようなものは何もなく、この男自身が殺人を犯したかどうかも、今では誰も証言できないからだ。この地の人々はほとんど例外なく、船長は英雄であり、公の葬儀に値すると考えている。すでに、彼の遺体はボートの列と共にエスク川を遡上し、テートヒル埠頭から修道院の階段を登って運ばれることが決定している。彼は崖の上の教会墓地に埋葬されることになっている。すでに百隻以上の船の所有者が、彼を墓まで送ることを名乗り出ている。

巨大な犬の消息は知れない。世論がこのような状況であるし、本来であれば町で飼われることになっただろうから、多くの人が嘆き悲しんでいる。明日には葬儀が行われ、この《海のミステリー》の終焉となる。

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