第十七章

スワード博士の日記(続き)

バークレー・ホテルに着くと、ヴァン・ヘルシング宛に電報が来ていた。

《レッシャデ ムカウ。ジョナサンハ ウィトビー。タイセツナ シラセ。──ミナ・ハーカー》

教授は喜んだ。

「あの素晴らしいミナ奥様が!」と彼は言った。「女性たちの中の真珠だ! 彼女が到着するものの、私はここにいられない。ジョン君、彼女は君の家に行くしかないようだな。駅で出迎えてくれ。彼女が準備できるよう、列車に電報を打ってくれ」

電報を送った後、彼はお茶を飲みながら、ジョナサン・ハーカーが外国でつけていた日記のことを話し、そのタイプ書きの写しと、ウィトビーでのハーカー夫人の日記の写しを僕に渡した。

「これを受け取りたまえ」と彼は言った。「そして熟読しなさい。私が帰ってきたときには、君はすべての事実を把握しているだろうから、我々はより良い形で調査を開始できるだろう。この書類の中に多くの宝があるのだから大切に保管しなさい。今日のような経験をした君でさえ、これを読むにはあらん限りの信心が必要だろう。ここに語られていることは、」彼は話しながら、重々しく手を書類の包みに置いた。「我々や他の多くの人にとっての終わりの始まりかもしれず、もしくは地上を歩く不死者に弔鐘を鳴らすかもしれないのだ。すべて常識にとらわれず読みなさい。そして、ここで語られた話に少しでも付け加えられることあらば、そうしなさい。それはとても重要なことなのだから。君はこのような奇妙な出来事をすべて日記に書いているのだったね。そうだろう! では再会したときに、一緒に合わせて確認するとしよう」

その後、彼は出発の準備をして、すぐにリバプール通りへ馬車を走らせた。僕はパディントンへ向かい、列車到着の十五分前に到着した。

群衆が到着したときのプラットホームにありがちな喧騒も次第に消え、客人を逃したのではないかと不安になりはじめた頃、優美な顔をした可憐な少女が近づいてきて、僕を一瞥した後、こう言った。

「スワード博士かしら」

「では、あなたはハーカー夫人ですか!」

僕はすぐに答えた。すると、彼女は手を差し出した。

「ルーシーから聞いて、あなたのことは存じ上げており──」

彼女は突然言葉を止めて、顔を赤らめた。

僕の頬も赤らんだが、それは彼女の表情に対する暗黙の返事であったので、僕たちは少しうちとけた。僕はタイプライターを含む彼女の荷物を受け取り、ハーカー夫人のために居間と寝室をすぐに整えるよう家政婦に電報を打った後、地下鉄でフェンチャーチ通りへ向かった。

やがて僕たちは家に到着した。もちろん彼女はここが精神病院だと事前に知っていたが、中に入ったときに身震いを押さえられない様子だった。

彼女は、話したいことがたくさんあるため、可能であればすぐに僕の書斎に行きたい旨を言ってきた。そこで、書斎で蓄音機の日記を付けつつ彼女を待っているところだ。ヴァン・ヘルシングが残していった書類を、まだ読む機会がないままに目の前に開いている。彼女に他に何か興味を作ってもらえるようにして、書類を読む時間を得なければならない。彼女は今の時間の大切さも、僕たちが直面している課題も知らないのだ。怖がらせないよう気をつけねば。彼女が来た!

ミナ・ハーカーの日記

九月二十九日

私は身なりを整えてから、スワード博士の書斎に行った。彼が誰かと話しているのが聞こえた気がしたので、扉の前でしばらく立ち止まった。しかし、早く来るように念押しされていたので、私は扉をノックし、彼の「いらっしゃい」という呼びかけに応えて入った。

驚いたことに、そこには彼以外誰もいなかった。彼は一人だった。向かいのテーブルの上にあったものについては、読んだことがあったので蓄音機とわかった。蓄音機を見たことがなかったので、とても興味を持った。

「お待たせしてないと良いんですが」と私は言った。「話し声が聞こえたので、どなたかいらっしゃるのかと、扉の前にいたんです」

「ああ」と彼は微笑みながら答えた。「日記をつけていただけです」

「あなたの日記、ですか」

私は驚いて尋ねた。

「そう。この中に記録されているんです」

彼はそう言いながら、蓄音機に手を置いた。私は蓄音機を見て興奮のあまり、思わず言葉を漏らした。

「これは速記に勝りますね! 何か音を出しているのを聞いてもいいですか」

「もちろんです」

彼は即座に答え、立ち上がり、蓄音機の音を出す操作に取りかかった。しかし、彼は手を止め、困ったような表情を浮かべた。

「実は」と彼は気まずそうに話し始めた。「この中には日記しか入っていません。そして日記は完全に──ほとんど完全に──症例の記録についてのものなので、まずいかもしれません。つまり、その──」

彼が言葉を止めたので、私は彼の気まずさを和らげようとした。

「あなたは親愛なるルーシーの最期を看取ったのですね。彼女がどのように亡くなったのか聞かせてください。どんなことでも彼女について知れたら、心から感謝いたします。彼女は私にとって、とてもとても大切な人でした」

驚いたことに、彼は驚愕した顔で答えた。

「彼女の死を語るだって? 全くありえない!」

「なぜですか」

深く恐ろしい感情に襲われそうになりながら尋ねた。彼が再び言葉を止めたので、言い訳を作ろうとしているのが分かった。やがて彼は言いよどみながら応えた。

「あのですね、日記の特定の部分をどう選んでいいかわからないんです」

話している最中に言い訳が浮かんだようで、彼は無意識のうちに、いつもと違う声色で、子供のような素朴さで言った。

「これは本当ですよ、僕の誇りにかけて誓います。インディアンのように正直に!」

私が思わず微笑んでしまったので、彼はしかめ面をした。

「馬脚が出てしまったようですね」と彼は言った。「でもですね、この日記は何ヶ月も前からつけていたんですが、調べたいことがあったときにどうやって調べたらいいか、一度も考えたことがなかったんです」

ルーシーに付き添った医師の日記から、あの恐ろしい存在に関する私たちの知識の総計に何か付け加えられるかもしれないと思い、思い切って言った。

「それなら、スワード博士、私のタイプライターで書き起こしさせてもらったほうがいいのではないかしら」

彼は死にそうなほど青ざめながら言った。

「だめだ! だめだ! だめだ! あんな恐ろしい話を絶対にあなたに知られてはいけない!」

つまり、恐ろしい出来事があったのだろう。私の直感は正しかった! 考えながら部屋を見渡し、助けとなる何かの物、あるいは何かの機会を無意識のうちに探しているうちに、テーブルの上にある大きなタイプ書きの書類の束に目が留まった。彼の目は私の目線に気づき、考える前にその方向を追った。彼の目が小包に辿り着いたとき、彼は私の意図を理解した。

「あなたはまだ私のことを知りません」と私は言った。「あの書類を読んだら──私自身の日記と、私がタイプした夫の日記を読んだら──私のことがもっとよくわかるようになります。この大義のために自分の心のすべての考えを打ち明けることにためらいはありません。もちろん、あなたは私のことを知りません──今はまだ知りません。なので、私をそこまで信用してくださるとは期待しません」

彼は明らかに崇高な性格の人であり、かわいそうなルーシーが言ったとおりであった。彼は立ち上がり、大きな引き出しを開けた。その中には暗い色の蝋で覆われた金属のシリンダーがいくつも順番に並んでいた。

「あなたの言うとおりです。あなたを知らなかったので、信用していませんでした。でも、今は知っています。もっと前に知っているべきだったと言えるでしょう。ルーシーから僕のことを聞いたのでしょうが、僕もあなたのことを聞いていたのですから。僕のできる唯一の償いをしてもいいでしょうか。シリンダーを持って行って聴いてください──最初の六本は僕にとって個人的なものですから、あなたを恐がらせることはないでしょう。それを聞けば、僕のことがもっと良くわかります。そのころには夕食もできていると思います。僕は、その間にこちらの書類に目を通すので、いくつかの事柄についてもっと理解できるようになっているでしょう」

彼は蓄音機を私の居間まで運び、調整してくれた。これで何か楽しいことを学べるに違いない。この蓄音機は、私がすでに片側を知っている真実の愛の物語の、もう反対側を教えてくれるのだから。

スワード博士の日記

九月二十九日

ジョナサン・ハーカーとその妻の素晴らしい日記に夢中で、考える間もなく時間が過ぎていった。メイドが夕食の知らせに来たときに、ハーカー夫人はまだ階下にきていなかった。

「彼女は疲れているのだろう、夕食は一時間待とう」

僕はそう言い、自分の仕事を続けた。ハーカー夫人の日記を読み終えたところで、彼女が入ってきた。とても可愛らしかったが、とても悲しげで、目は泣いたために赤くなっていた。これはどういうわけか、僕を大いに感動させた。神のみぞ知ることに最近の僕には涙を流す理由があったのだった! しかし、涙を流しても安らぎは訪れなかった。だからこそ、さきほど流したばかりの涙で輝いている彼女の甘美な目は、僕の心にまっすぐに届いた。だから、できるだけ優しく言った。

「あなたを苦しめたかもしれません」

「いいえ、そんなことありません」と彼女は答えた。「どちらかというと、あなたの悲しみに言いようのないほど感動しています。これは素晴らしい機械ですが、残酷なほどに真実を伝えますね。その声色で、あなたの心の苦悩を伝えてくれたのです。まるで全能の神に向かって叫ぶ魂のようでした。誰として、再びこの言葉を聞いてはなりません! さあ、私はお役に立とうといたしました。タイプライターで言葉を書き写したので、もう誰も私のようにあなたの心臓の鼓動を聞く必要はないのです」

「誰も僕の言葉を知る必要はないし、知るべきでないのですが」

僕は低い声でそう言った。彼女は僕の手の上にその手を置き、とても重々しくこう言った。

「ええ、でも彼らも知る必要があります!」

「必要があるとは! なぜですか」と、僕は尋ねた。

「なぜなら、これは恐ろしい物語の一部であり、かわいそうなルーシーの死とそれに至るまでのすべてのことの一部だからです。なぜなら、もうすぐ始まる、この恐ろしい怪物を地上から排除するための苦闘においては、得られるすべての知識とすべての助けを得なければならないからです。いただいたシリンダーには、あなたが私に知らせたかった以上の情報が含まれていたようです。あなたの記録に、この暗い謎を照らす多くの光があることがわかります。私を助けてくださいませんか。ある時点までのことはすべて知っています。あなたの日記を九月七日までしか読んでいませんが、かわいそうなルーシーがどのように苦しめられ、どのように彼女に恐ろしい運命がもたらされてたのかがわかりました。ジョナサンと私は、ヴァン・ヘルシング教授とお会いしてから、昼も夜も働き続けています。ジョナサンは更なる情報を求めてウィトビーに行っていますが、明日にはここに来て私たちを助けてくれるでしょう。私たちの間に秘密は必要ありません。絶対的な信頼関係と協力によって、何人かが秘密を抱えているよりもずっと、強くなれるはずです」 

彼女の眼差しは訴えるようだったし、態度は勇気と決意を示していたので、僕はすぐに望みに応じた。

「そうしてください」と僕は言った。「この件に関してはお好きになさってください。もしこの判断が間違っていたとしたら、神よ、お許しください! まだあなたには知るべき恐ろしいことが残っていますが、ルーシーの死への道筋をここまでたどってきたのなら、知らずにいつづけることに納得できないでしょう。いや、道筋の最後が──本当の最後が──あなたに安らぎの光を与えてくれるかもしれない。夕食としましょう。僕たちは目の前の困難に備えて、互いに強くなければなりません。残酷で恐ろしい任務を負っているのだから。食事が済んだら、残りを聞くことにしませんか。どんな質問にも答えましょう──その場にいた僕たちに明らかでありながら、あなたに理解できないことがあれば、ですが」

ミナ・ハーカーの日記

九月二十九日

夕食の後、スワード博士と一緒に書斎に行った。彼は私の部屋から書斎に蓄音機を戻し、私は自室からタイプライターを持っていった。彼は私を座り心地の良い椅子に座らせ、私が立ち上がることなく触れる位置に蓄音機を配置し、一時停止したくなったときの止め方を教えてくれた。そして私ができるだけくつろげるようにと、背中を向けて椅子に座って読み物をはじめた。私は二股になっている金属を耳に当て、耳を傾けた。

ルーシーの死と、それに続く恐ろしい話の全容が終わると、私は力なく椅子に背を預けた。幸い、気絶するような性格ではない。スワード博士は私を見るなり、ぞっとしたように飛び上がり、急いで戸棚から角瓶を取り出してブランデーを飲ませてくれたので、二、三分後にはいくらか回復した。頭の中は混乱していた。しかし、多くの恐怖を乗り越えて、愛するルーシーがついに安眠したのだという聖なる光が、これまでの恐怖に差し込んできたからこそ、騒ぎ立てずにいられた。あまりにも荒びていて、不可思議で、奇妙な話だったので、トランシルヴァニアでのジョナサンの体験を知らなければ信じることはできなかった。実際のところ、何を信じていいのかわからず、別のことに気を配ることでこの難局を乗り切ったのだった。私はタイプライターのカバーを外し、スワード博士にこう言った。

「これから、これを全部打ち出します。ヴァン・ヘルシング博士の来訪に備えなければなりませんから。ジョナサンには、ウィトビーからロンドンに到着したら、ここに来るようにと電報を打ってあります。こうした問題は日時がすべてです。なので、すべての資料を準備し、すべての資料を時系列順に並べれば、多くのことが成し遂げられるでしょう。ゴダルミング卿とモリスさんもいらっしゃると仰ってましたね。ご両名が来たときに教えられるようにしましょう」

そこで彼は蓄音機をゆっくりした速度にし、私は第七筒の初めからタイプを始めた。マニホールドを使ったので、他の書面と同じく、日記は三枚複写になった。打ち終えたのはもう遅い時間で、スワード博士は患者を巡回する仕事に取りかかっていた。彼は巡回が終わると戻ってきて近くに座って読み物をしていたので、私は作業をしている間、あまり寂しい思いをすることはなかった。彼はなんと善良で、思慮深いのだろう。世界は善人で溢れているようだ──たとえ怪物もいるのだとしても。書斎から立ち去る前に、エクセターの駅で教授が夕刊を読んで動揺していたことを、ジョナサンが日記に書いていたと思い出した。なので、スワード博士が新聞を保管しているのを確認し、『ウェストミンスター・ガゼット』と『ペルメル・ガゼット』のファイルを借りてきて、自室に持ち込んだ。私が切り取った『デイリーグラフ』や『ウィトビー・ガゼット』は、ドラキュラ伯爵が上陸したときにウィトビーで起こった恐ろしい出来事を理解するのに役立った。それ以後の夕刊に目を通すと、何か新しい知見が得られるかもしれない。眠くはないし、この仕事をすることで落ち着くかもしれない。

スワード博士の日記

九月三十日

ハーカー氏は九時に到着した。彼は出発直前に妻から電報を受けていたそうだ。容貌から判断するに、非常に頭が良く、活気に満ち溢れている。彼の日記が本当なら──僕自身の不思議な体験から判断して本当であるはずだが──大した神経の持ち主でもある。彼が二度目に地下室に降りたのは、驚くべき大胆さだった。彼の記録を読んだ後に会うことを予期していた人物は、男らしさの実例のような人物であり、今日訪ねてきた静かで実務的な紳士とはかけ離れていた。  

その後。

昼食後、ハーカー夫妻は自室に戻った。先ほど前を通りかかったら、タイプライターの音が聞こえてきた。彼らは一生懸命にやっている。ハーカー夫人によると、手持ちの断片的な証拠をすべて時系列に編んでいるのだという。ハーカーは、ウィトビーでの箱の荷受人とそれを担当したロンドンの運送業者との間の手紙を手に入れていた。ハーカーは今、彼の妻による僕の日記の書き起こしを読んでいるところだ。彼らは何を読み取るのだろう。おや、ハーカーが来たようだ。

不思議なことに、隣家が伯爵の隠れ家かもしれないとは思いもよらなかった! 患者であるレンフィールドの行動から、充分な手がかりを得ていたはずなのに! あの家の購入に関する手紙の束は、タイプ書きの書類と一緒に渡されていた。ああ、もっと早く手に入れていればかわいそうなルーシーを救えたかもしれないのに! 考えても詮無い【訳注:that way madness lies。シェークスピア『リア王』】ことだ! ハーカーは自室に戻り、再び資料を整理している。夕食の時間には、全て一連となった物語を見せられるだろうと言っていた。これまで伯爵の出入りの指標となってきたレンフィールドに、その間に会いにいくべきだとハーカーは思っている。僕には理解できないが、日付を確認すれば分かるのだろう。ハーカー夫人が僕のシリンダーを活字にしてくれたのは、何と素晴らしいことだろうか! そうでなければ、日付の相関を見つけることができなかったのだから。

レンフィールドが自室で両手を組み、穏やかに微笑みながら座っているのを見つけた。その時の彼は、僕が今まで見てきた人々と同じくらいまともだった。座って様々な話をしたが、どれにも自然に応じてくれた。そして彼は自分の意志で、ここに滞在している間は知る限り一度も口にしたことがなかった、帰郷について提案してきた。実のところ、彼は、すぐにでも退院する旨を堂々と話した。もし僕がハーカーと話をせず、手紙や、彼が暴れた日の日付を確認していなかったら、短い観察期間の後に彼のために署名したはずだ。今のところは、曖昧な疑いを持っている。彼の暴行の発生はすべて、何らかの形で伯爵の接近と関連していた。では、今の彼に見られる安定は何を意味するのだろうか。ヴァンパイアの最終的な勝利に際して、彼の本能が満足することなどあるだろうか。待てよ。彼自身もゾウオファガス狂であったし、荒れ果てた家の礼拝堂の扉の外で荒々しく暴れているときは、いつも《主人》のことを話していた。これはすべて僕たちの考えを裏付けるものに見受けられる。しばらくして僕はその場を去った。僕の友人は今のところまともすぎて、あまり深く質問して探るのは危険だ。彼は質問の理由を考えるかもしれないし、もし考えたら──! だから、僕は立ち去ったのだ。彼の穏やかな態度を信用できない。なので世話人に、彼をよく監視し、必要な場合のために拘束衣を用意しておくようにと忠告しておいた。

ジョナサン・ハーカーの日記

九月二十九日 ロンドン行き列車にて

ビリントン氏から、できる限りの情報を提供するという丁寧な連絡を受けたとき、ウィトビーに行って現場で調査をするのが最善と考えた。伯爵の恐ろしい積荷の、ロンドンでの配送先を辿るのが目下の目的だ。追跡できれば、後々対処できるだろうから。ビリントン・ジュニアは親切な若者で、駅で僕を出迎え、彼の父親の家まで連れてきてくれた。彼らは、僕を家に泊めてくれるつもりらしかった。彼らはヨークシャー流の心からのもてなしをしてくれた。客にすべてを与え、好きに過ごさせるというものだ。僕が忙しいことも、滞在が短いことも承知の上で、ビリントン氏は木箱の委託に関するすべての書類を事務所に用意してくれていた。伯爵の極悪非道な計画を知る前に、伯爵の机の上で見かけた一通の手紙を再びここで確認し、ほとんど気が動転してしまった。全ての計画は慎重に考え抜かれ、秩序立てて正確に行われていたのだ。伯爵は、自分の目的を達成するために、偶然起こりうるあらゆる問題に備えていたようだ。アメリカ流に言えば、《賭けには出ない》ということだ。そして、伯爵の指示が完璧に遂行されたのは、単に彼の細心の配慮の論理的な成果であった。僕は明細を見て、覚書を取った。《普通の土五十箱、実験用に使用す》。カーター・パターソン運送会社に送った手紙の写しと、その返事も確認し、どちらも写しを取った。ビリントン氏が教えられる情報はこれだけだったので、港に行き、沿岸警備隊、税関職員、港湾管理人に会った。彼らは皆、地元の言い伝えとして定着している、船の奇妙な入港について意見を持っていた。しかし、誰も《普通の土五十箱》という単純な情報に追加情報を加えられなかった。その後に駅長と会うと、親切にも実際に箱を受け取った人たちを呼んでくれた。荷物についての彼らの報告は帳簿と全く同じで、箱が《死ぬほど重い》ことと、それを運ぶのが大変な作業であったこと以外は、何も付け加えられることはなかった。そのうちの一人は、自分たちの努力を何らかの形で評価してくれる紳士──「旦那のようなお人のことさ」──がいないのはつらいことだと言った。別の一人は、あのときの仕事で生じた喉の渇きはひどいもので、時間が経っても完全に癒えることはなかったと言い添えた。言うまでもないことだが、その場を離れる前に酒代を与え、このような非難の種を永遠に、そして充分に取り除くように気をつけた。

九月三十日

駅長が親切にも、彼の旧友であるキングスクロス駅長に連絡してくれたので、朝にキングスクロスに着いたとき、箱の到着について尋ねることができた。彼も直ちに担当者と連絡を取ってくれ、明細の通り正しく箱の数が集計がされていることを確認した。前日ほどではなかったが、異常な喉の渇きについて丁寧に訴えられたため、またしても事後的に対処すべく酒代を払う羽目になった。

そこから、カーター・パターソン運送会社の中央事務所に向かい、最大限の好意をもって迎えられた。彼らは日報と書簡記録簿でこの取引を調べ、すぐにキングスクロス事務所に電話をかけて詳細を聞いてくれた。幸運なことに、担当した男たちが仕事の待機中だったので、担当者はすぐに彼らをこちらに向かわせてくれ、そのうちの一人が、運送状と、カーファックスへの箱の配達に関するすべての書類を持ってきてくれた。ここでもまた、集計された箱の数が正確に一致するとわかった。運送業者の人たちは、いくつかの点で、書かれた情報の少なさを補足できた。この仕事の埃っぽさや、そのために生じる作業員の喉の渇きと、情報補足の如何に関係があることはすぐに理解できた。喉の渇きという寛大なる弊害を和らげるための機会を、我が国の通貨を媒介として提供したところ、ある男が言った。

「旦那、おりゃあ、あんな奇妙な家にゃ入ったことありゃせんね。マッタク! で、あの家は百年前から放りっぱなしでしょうな。骨も痛めず眠れるほどの埃があって、エルサレムみてえな匂いがするほどほっとかれてますわ。でね、あの礼拝堂は──ひでえありさまでさあ! 俺と仲間は、あれ以上急ぎようがないくれえすぐに出たんすよ。日が暮れるまであそこにいるのは、一瞬につき一ポンドもらったって安いくらいでさ」

あの家に入ったことのある僕は、彼の言葉を信じることができた。もし僕が知っていることを彼が知っていれば、彼は配送作業の運賃を上げたことだろう。

デメテル号によりヴァルナからウィトビーに到着したすべての箱が、カーファックスの古い礼拝堂に無事に収められたことを、今確信できた。その後持ち出されたものがない限り、そこには五十個の箱があるはずだ──スワード博士の日記を読むだに、持ち出された恐れはあるが。

レンフィールドが暴行を働いたときに、カーファックスから箱を持ち去った運送業者に会うつもりだ。この手がかりを追えば、多くがわかるかもしれない。

その後。

ミナと僕は一日中働き、すべての書類を順番に並べた。

ミナ・ハーカーの日記

九月三十日

嬉しくて、自分を抑えられない。この恐ろしい事件とジョナサンの古傷を抉る出来事が、ジョナサンに悪影響を及ぼすのではないかという、私が抱いていた不安の反動なのだろう。できるだけ勇敢な表情をして、ジョナサンがウィトビーに向かうのを見送ったが、不安で胸が痛んだ。しかし、この取り組みはジョナサンに良い結果をもたらしたようだ。彼が今ほど毅然とし、強く、活力に満ちた人物であったことはない。あの親愛なる、善良なヴァン・ヘルシング教授が言った通り。ジョナサンは真の気骨を持っており、弱い性格なら死んでしまうような緊張の中でこそ、向上していくのだ。彼は生命力と希望と決意に満ち溢れて帰ってきた。私たちは今夜のためにすべての書類を整えた。興奮してしまい、熱狂的な気分にすらなっている。伯爵のように追い詰められているものは、哀れむべきなのかもしれないと思う。ここが重要で、あの《もの》は人間ではなく、獣ですらないのだ。スワード博士による、ルーシーの死とその後の経過を読むだけで、心の中の憐れみの泉を枯らすのに充分だ。

その後。

ゴダルミング卿とモリスさんは、思ったより早く到着した。スワード博士は出先で、ジョナサンも連れて行ったので、私が会わざるを得なかった。ほんの数ヶ月前のかわいそうなルーシーの将来への希望がよみがえり、私にとってはつらい出会いだ。もちろん、彼らはルーシーの口から私のことを聞いているし、ヴァン・ヘルシング博士も彼らに対して私のことを褒めてくださっていた。モリス氏が言うには博士は《ラッパを吹いていた》ようだ。気の毒なことに、二人とも、彼らがルーシーにした提案を私が全て知っていることには気づいていない。それに私の知識の範囲も知らないため、二人は何を言っていいのか、何をしていいのかも分からず、私と取り止めのない話を続けるしかなかった。しかし私は、状況を踏まえてできる最善のことは、彼らに最新の状況を伝えることだという結論に達した。スワード博士の日記で、彼らがルーシーの死──本当の死──に立ち会ったことを知っていたので、早々と秘密を漏らしてしまう心配はないと思ったのだ。そこで、できるだけ詳しく、書類や日記をすべて読んだこと、夫と私がタイプ書きした書類をちょうど順番に並べ終えたところであることを話した。私は彼らにそれぞれ一部ずつ、書斎で読むようにと渡した。ゴダルミング卿はそれを手にしてめくると──結構な分量なのだ──言った。

「ハーカー夫人、これは全部あなたがタイプしたんですか」

私がうなずくと、彼はさらに続けた。

「まだ趣旨がよくわからないのですが、皆さんとても善良で親切で、とても熱心に精力的に努力しておられる。なので、私にできることは、目を瞑って皆さんの考えを受け入れ、皆さんのお役に立つよう努力するのみです。死ぬときまで謙虚にならざるを得ないような、とある事実を受け入れる過程で、教訓をすでに得ましたから。それに、あなたが哀れなルーシーを愛していたことも存じ上げており──」

ここで彼は背を向け、両手で顔を覆った。声から泣いていることがわかった。モリス氏は生来の気遣いで、ただ彼の肩に一瞬手を置いたのち、静かに部屋を出て行った。女性というものには、男性が男らしさを損なうことなく、打ちひしがれ、優しい気持ちや感情を表現できるような何かがあるのだろう。ゴダルミング卿は私と二人になると、ソファに座り、まったく率直に感情を露わにしたのだ。私は彼の横に座って手を取った。でしゃばりと思われなかったことを、もし彼が後でそのことを思い返しても決してそのように考えないことを望む。ああ、今の文章は彼に公平じゃなかった。決してそう思わないことは分かってる──真の紳士なのだから。彼の心が打ちひしがれているのがわかったので、こう言った。

「私はルーシーを愛していました。そして、ルーシーがあなたにとってどんな存在だったか、あなたがルーシーにとってどんな存在だったか知っています。ルーシーと私は姉妹のようでした。ルーシーが亡くなった今、あなたの悩みに際して、私を妹のように扱っていただけませんか。お悲しみの深さは計り知れませんが、どんな悲しみを抱えているかは知っています。もし同情や哀れみがお苦しみの助けになるなら、少しだけでもお役に立たせてくれないでしょうか──ルーシーのために」

一瞬にして、哀れなゴダルミング卿は悲しみに圧倒された。このところ彼が沈黙のうちに耐えていた苦しみが、一挙に発散されたように思えた。かなりヒステリックになり、悲嘆しながら開いた両手を頭上にあげ、手のひらを打ち合わせた。立ち上がっては座り込み、滂沱の涙が頬を伝った。私は限りない哀れみを感じ、思わず腕を広げた。彼は嗚咽を漏らしながら私の肩に頭を乗せ、疲れ果てた子供のように泣き、感情で体を震わせた。

私たち女性には母親のようなところがあり、母性が呼び起こされると些事を乗り越えられるものだ。肩の上にある、悲しみに暮れる男性の頭を、いつか私の胸に抱かれるかもしれない赤ん坊のように感じ、我が子のように彼の髪をなでつけた。その時は、それがどんなに不思議なことかとは、思いもしなかった。

少しして嗚咽は止み、彼は詫びながら身を起こしたが、今度は感情を隠すことはしなかった。昼も夜も──疲弊した日も眠れぬ夜も──男が悲しんだ際に語るべき言葉を、誰とも語ることができなかったのだ、と彼は言った。彼に同情してくれる女性もいなかった。彼の嘆きを取り囲む恐ろしい状況のせいで、彼が自由に話せる女性もいなかった。

「自分がどれだけ苦しんだのか、今はよくわかります」と彼は目元を拭きながら言った。「でも、今日のあなたの優しい哀れみがどれほど私にとって大きなものだったのか、私にはまだわかってません──他の誰にも絶対にわからないでしょう。そのうちよくわかるようになると思います。今の私が恩知らずというわけではありませんが、理解するにつれてあなたへの感謝の気持ちも大きくなると信じます。今後、私を兄と思ってくださいませんか──親愛なるルーシーのために」

「愛しのルーシーのために」

私はそう言い、二人で手を取り合った。

「それと、これはあなたのためでもあります」と彼は付け加えた。「男からの尊敬と感謝というものに、勝ち取る価値があるのだとすれば、あなたは今日、私の尊敬と感謝を勝ち取ったのです。もし将来、あなたが助けを必要とする時が来たら、私を呼ぶ声は決して無駄にはならないことを信じてください。あなたの人生が幸福の輝きを失うような時が来ませんよう。でも、もしその時が来たら、私に知らせると約束してください」

彼はとても真剣だったし、彼の悲しみはまだ癒えていなかったので、彼を慰めようと思い、こう返事をした。

「約束します」

廊下を歩いていると、モリスさんが窓から外に顔を出していた。彼は私の足音を聞いて振り返った。

「アートはどうだい」

彼はそう言った。そして、私の目が赤いことに気づいて、こう言った。

「ああ、慰めてやっていたのか。かわいそうな奴だ! 奴には慰めが必要だったんだ。男が心に問題を抱えているときには、女性しか助けられないだろ。で、奴には慰めてやれる奴が誰もいなかったからな」

モリスさんが自身の悩みを勇敢に耐えている姿に、胸が痛んだ。彼の手にある書面を見て、彼がそれを読んだとき、彼について私が何を知っているかに気付くことに思い至った。なので、こう言った。

「苦しむ心を持つすべての人を慰められたらいいのに。私をお友達とお考えになって、必要なときには慰めを求めていらしてくださいませんか。なぜこう申し上げるのかは、後でおわかりになるでしょう」

彼は私の真剣さを見てとり、膝をつき、私の手を取って唇に近づけキスをした。モリスさんのとても勇敢で無私の魂に対して、この慰めは乏しく思えたため、衝動的に私は身を乗り出して彼にキスをした。彼は目に涙を浮かべ、一瞬だけ息を止めた。彼は、非常に冷静にこう言った。

「お嬢さんが生きている限り、心からの優しさを決して後悔させはしない!」

そして、モリス氏は友人のために書斎へと向かった。《お嬢さん!》──まさに彼がルーシーに対して使った言葉だ! それなら、私は友人として認められたのだ!

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