9月30日

スワード博士の日記

九月三十日

ハーカー氏は九時に到着した。彼は出発直前に妻から電報を受けていたそうだ。容貌から判断するに、非常に頭が良く、活気に満ち溢れている。彼の日記が本当なら──僕自身の不思議な体験から判断して本当であるはずだが──大した神経の持ち主でもある。彼が二度目に地下室に降りたのは、驚くべき大胆さだった。彼の記録を読んだ後に会うことを予期していた人物は、男らしさの実例のような人物であり、今日訪ねてきた静かで実務的な紳士とはかけ離れていた。 

その後。

昼食後、ハーカー夫妻は自室に戻った。先ほど前を通りかかったら、タイプライターの音が聞こえてきた。彼らは一生懸命にやっている。ハーカー夫人によると、手持ちの断片的な証拠をすべて時系列に編んでいるのだという。ハーカーは、ウィトビーでの箱の荷受人とそれを担当したロンドンの運送業者との間の手紙を手に入れていた。ハーカーは今、彼の妻による僕の日記の書き起こしを読んでいるところだ。彼らは何を読み取るのだろう。おや、ハーカーが来たようだ。

不思議なことに、隣家が伯爵の隠れ家かもしれないとは思いもよらなかった! 患者であるレンフィールドの行動から、充分な手がかりを得ていたはずなのに! あの家の購入に関する手紙の束は、タイプ書きの書類と一緒に渡されていた。ああ、もっと早く手に入れていればかわいそうなルーシーを救えたかもしれないのに! 考えても詮無い【訳注:that way madness lies。シェークスピア『リア王』】ことだ! ハーカーは自室に戻り、再び資料を整理している。夕食の時間には、全て一連となった物語を見せられるだろうと言っていた。これまで伯爵の出入りの指標となってきたレンフィールドに、その間に会いにいくべきだとハーカーは思っている。僕には理解できないが、日付を確認すれば分かるのだろう。ハーカー夫人が僕のシリンダーを活字にしてくれたのは、何と素晴らしいことだろうか! そうでなければ、日付の相関を見つけることができなかったのだから。

レンフィールドが自室で両手を組み、穏やかに微笑みながら座っているのを見つけた。その時の彼は、僕が今まで見てきた人々と同じくらいまともだった。座って様々な話をしたが、どれにも自然に応じてくれた。そして彼は自分の意志で、ここに滞在している間は知る限り一度も口にしたことがなかった、帰郷について提案してきた。実のところ、彼は、すぐにでも退院する旨を堂々と話した。もし僕がハーカーと話をせず、手紙や、彼が暴れた日の日付を確認していなかったら、短い観察期間の後に彼のために署名したはずだ。今のところは、曖昧な疑いを持っている。彼の暴行の発生はすべて、何らかの形で伯爵の接近と関連していた。では、今の彼に見られる安定は何を意味するのだろうか。ヴァンパイアの最終的な勝利に際して、彼の本能が満足することなどあるだろうか。待てよ。彼自身もゾウオファガス狂であったし、荒れ果てた家の礼拝堂の扉の外で荒々しく暴れているときは、いつも《主人》のことを話していた。これはすべて僕たちの考えを裏付けるものに見受けられる。しばらくして僕はその場を去った。僕の友人は今のところまともすぎて、あまり深く質問して探るのは危険だ。彼は質問の理由を考えるかもしれないし、もし考えたら──! だから、僕は立ち去ったのだ。彼の穏やかな態度を信用できない。なので世話人に、彼をよく監視し、必要な場合のために拘束衣を用意しておくようにと忠告しておいた。

ジョナサン・ハーカーの日記

九月三十日

駅長が親切にも、彼の旧友であるキングスクロス駅長に連絡してくれたので、朝にキングスクロスに着いたとき、箱の到着について尋ねることができた。彼も直ちに担当者と連絡を取ってくれ、明細の通り正しく箱の数が集計がされていることを確認した。前日ほどではなかったが、異常な喉の渇きについて丁寧に訴えられたため、またしても事後的に対処すべく酒代を払う羽目になった。

そこから、カーター・パターソン運送会社の中央事務所に向かい、最大限の好意をもって迎えられた。彼らは日報と書簡記録簿でこの取引を調べ、すぐにキングスクロス事務所に電話をかけて詳細を聞いてくれた。幸運なことに、担当した男たちが仕事の待機中だったので、担当者はすぐに彼らをこちらに向かわせてくれ、そのうちの一人が、運送状と、カーファックスへの箱の配達に関するすべての書類を持ってきてくれた。ここでもまた、集計された箱の数が正確に一致するとわかった。運送業者の人たちは、いくつかの点で、書かれた情報の少なさを補足できた。この仕事の埃っぽさや、そのために生じる作業員の喉の渇きと、情報補足の如何に関係があることはすぐに理解できた。喉の渇きという寛大なる弊害を和らげるための機会を、我が国の通貨を媒介として提供したところ、ある男が言った。

「旦那、おりゃあ、あんな奇妙な家にゃ入ったことありゃせんね。マッタク! で、あの家は百年前から放りっぱなしでしょうな。骨も痛めず眠れるほどの埃があって、エルサレムみてえな匂いがするほどほっとかれてますわ。でね、あの礼拝堂は──ひでえありさまでさあ! 俺と仲間は、あれ以上急ぎようがないくれえすぐに出たんすよ。日が暮れるまであそこにいるのは、一瞬につき一ポンドもらったって安いくらいでさ」

あの家に入ったことのある僕は、彼の言葉を信じることができた。もし僕が知っていることを彼が知っていれば、彼は配送作業の運賃を上げたことだろう。

デメテル号によりヴァルナからウィトビーに到着したすべての箱が、カーファックスの古い礼拝堂に無事に収められたことを、今確信できた。その後持ち出されたものがない限り、そこには五十個の箱があるはずだ──スワード博士の日記を読むだに、持ち出された恐れはあるが。

レンフィールドが暴行を働いたときに、カーファックスから箱を持ち去った運送業者に会うつもりだ。この手がかりを追えば、多くがわかるかもしれない。

その後。

ミナと僕は一日中働き、すべての書類を順番に並べた。

ミナ・ハーカーの日記

九月三十日

嬉しくて、自分を抑えられない。この恐ろしい事件とジョナサンの古傷を抉る出来事が、ジョナサンに悪影響を及ぼすのではないかという、私が抱いていた不安の反動なのだろう。できるだけ勇敢な表情をして、ジョナサンがウィトビーに向かうのを見送ったが、不安で胸が痛んだ。しかし、この取り組みはジョナサンに良い結果をもたらしたようだ。彼が今ほど毅然とし、強く、活力に満ちた人物であったことはない。あの親愛なる、善良なヴァン・ヘルシング教授が言った通り。ジョナサンは真の気骨を持っており、弱い性格なら死んでしまうような緊張の中でこそ、向上していくのだ。彼は生命力と希望と決意に満ち溢れて帰ってきた。私たちは今夜のためにすべての書類を整えた。興奮してしまい、熱狂的な気分にすらなっている。伯爵のように追い詰められているものは、哀れむべきものなのかもしれないと思う。ここが重要で、あの《もの》は人間ではなく、獣ですらないのだ。スワード博士による、ルーシーの死とその後の経過を読むだけで、心の中の憐れみの泉を枯らすのに充分だ。

その後。

ゴダルミング卿とモリスさんは、思ったより早く到着した。スワード博士は出先で、ジョナサンも連れて行ったので、私が会わざるを得なかった。ほんの数ヶ月前のかわいそうなルーシーの将来への希望がよみがえり、私にとってはつらい出会いだ。もちろん、彼らはルーシーの口から私のことを聞いているし、ヴァン・ヘルシング博士も彼らに対して私のことを褒めてくださっていた。モリス氏が言うには博士は《ラッパを吹いていた》ようだ。気の毒なことに、二人とも、彼らがルーシーにした提案を私が全て知っていることには気づいていない。それに私の知識の範囲も知らないため、二人は何を言っていいのか、何をしていいのかも分からず、私と取り止めのない話を続けるしかなかった。しかし私は、状況を踏まえてできる最善のことは、彼らに最新の状況を伝えることだという結論に達した。スワード博士の日記で、彼らがルーシーの死──本当の死──に立ち会ったことを知っていたので、早々と秘密を漏らしてしまう心配はないと思ったのだ。そこで、できるだけ詳しく、書類や日記をすべて読んだこと、夫と私がタイプ書きした書類をちょうど順番に並べ終えたところであることを話した。私は彼らにそれぞれ一部ずつ、書斎で読むようにと渡した。ゴダルミング卿はそれを手にしてめくると──結構な分量なのだ──言った。

「ハーカー夫人、これは全部あなたがタイプしたんですか」

私がうなずくと、彼はさらに続けた。

「まだ趣旨がよくわからないのですが、皆さんとても善良で親切で、とても熱心に精力的に努力しておられる。なので、私にできることは、目を瞑って皆さんの考えを受け入れ、皆さんのお役に立つよう努力するのみです。死ぬときまで謙虚にならざるを得ないような、とある事実を受け入れる過程で、教訓をすでに得ましたから。それに、あなたが哀れなルーシーを愛していたことも存じ上げており──」

ここで彼は背を向け、両手で顔を覆った。声から泣いていることがわかった。モリス氏は生来の気遣いで、ただ彼の肩に一瞬手を置いたのち、静かに部屋を出て行った。女性というものには、男性が男らしさを損なうことなく、打ちひしがれ、優しい気持ちや感情を表現できるような何かがあるのだろう。ゴダルミング卿は私と二人になると、ソファに座り、まったく率直に感情を露わにしたのだ。私は彼の横に座って手を取った。でしゃばりと思われなかったことを、もし彼が後でそのことを思い返しても決してそのように考えないことを望む。ああ、今の文章は彼に公平じゃなかった。決してそう思わないことは分かってる──真の紳士なのだから。彼の心が打ちひしがれているのがわかったので、こう言った。

「私はルーシーを愛していました。そして、ルーシーがあなたにとってどんな存在だったか、あなたがルーシーにとってどんな存在だったか知っています。ルーシーと私は姉妹のようでした。ルーシーが亡くなった今、あなたの悩みに際して、私を妹のように扱っていただけませんか。お悲しみの深さは計り知れませんが、どんな悲しみを抱えているかは知っています。もし同情や哀れみがお苦しみの助けになるなら、少しだけでもお役に立たせてくれないでしょうか──ルーシーのために」

一瞬にして、哀れなゴダルミング卿は悲しみに圧倒された。このところ彼が沈黙のうちに耐えていた苦しみが、一挙に発散されたように思えた。かなりヒステリックになり、悲嘆しながら開いた両手を頭上にあげ、手のひらを打ち合わせた。立ち上がっては座り込み、滂沱の涙が頬を伝った。私は限りない哀れみを感じ、思わず腕を広げた。彼は嗚咽を漏らしながら私の肩に頭を乗せ、疲れ果てた子供のように泣き、感情で体を震わせた。

私たち女性には母親のようなところがあり、母性が呼び起こされると些事を乗り越えられるものだ。肩の上にある、悲しみに暮れる男性の頭を、いつか私の胸に抱かれるかもしれない赤ん坊のように感じ、我が子のように彼の髪をなでつけた。その時は、それがどんなに不思議なことかとは、思いもしなかった。

少しして嗚咽は止み、彼は詫びながら身を起こしたが、今度は感情を隠すことはしなかった。昼も夜も──疲弊した日も眠れぬ夜も──男が悲しんだ際に語るべき言葉を、誰とも語ることができなかったのだ、と彼は言った。彼に同情してくれる女性もいなかった。彼の嘆きを取り囲む恐ろしい状況のせいで、彼が自由に話せる女性もいなかった。

「自分がどれだけ苦しんだのか、今はよくわかります」と彼は目元を拭きながら言った。「でも、今日のあなたの優しい哀れみがどれほど私にとって大きなものだったのか、私にはまだわかってません──他の誰にも絶対にわからないでしょう。そのうちよくわかるようになると思います。今の私が恩知らずというわけではありませんが、理解するにつれてあなたへの感謝の気持ちも大きくなると信じます。今後、私を兄と思ってくださいませんか──親愛なるルーシーのために」

「愛しのルーシーのために」

私はそう言い、二人で手を取り合った。

「それと、これはあなたのためでもあります」と彼は付け加えた。「男からの尊敬と感謝というものに、勝ち取る価値があるのだとすれば、あなたは今日、私の尊敬と感謝を勝ち取ったのです。もし将来、あなたが助けを必要とする時が来たら、私を呼ぶ声は決して無駄にはならないことを信じてください。あなたの人生が幸福の輝きを失うような時が来ませんよう。でも、もしその時が来たら、私に知らせると約束してください」

彼はとても真剣だったし、彼の悲しみはまだ癒えていなかったので、彼を慰めようと思い、こう返事をした。

「約束します」

廊下を歩いていると、モリスさんが窓から外に顔を出していた。彼は私の足音を聞いて振り返った。

「アートはどうだい」

彼はそう言った。そして、私の目が赤いことに気づいて、こう言った。

「ああ、慰めてやっていたのか。かわいそうな奴だ! 奴には慰めが必要だったんだ。男が心に問題を抱えているときには、女性しか助けられないだろ。で、奴には慰めてやれる奴が誰もいなかったからな」

モリスさんが自身の悩みを勇敢に耐えている姿に、胸が痛んだ。彼の手にある書面を見て、彼がそれを読んだとき、彼について私が何を知っているかに気付くことに思い至った。なので、こう言った。

「苦しむ心を持つすべての人を慰められたらいいのに。私をお友達とお考えになって、必要なときには慰めを求めていらしてくださいませんか。なぜこう申し上げるのかは、後でおわかりになるでしょう」

彼は私の真剣さを見てとり、膝をつき、私の手を取って唇に近づけキスをした。モリスさんのとても勇敢で無私の魂に対して、この慰めは乏しく思えたため、衝動的に私は身を乗り出して彼にキスをした。彼は目に涙を浮かべ、一瞬だけ息を止めた。彼は、非常に冷静にこう言った。

「お嬢さんが生きている限り、心からの優しさを決して後悔させはしない!」

そして、モリス氏は友人のために書斎へと向かった。《お嬢さん!》──まさに彼がルーシーに対して使った言葉だ! それなら、私は友人として認められたのだ!

スワード博士の日記

九月三十日

五時に家に帰ると、ゴダルミングとモリスが到着していたばかりか、ハーカーと彼の素晴らしい妻が作成し整理した様々な日記や手紙の記録をすでに読み終えていた。ハーカーは、ヘネシー博士が僕に手紙で知らせてくれた運送業者への訪問からまだ戻っていなかった。ハーカー夫人がお茶を出してくれた。正直言って、この家に住んで初めて、この古い家が我が家のように思えた。飲み終わると、ハーカー夫人が言った。

「スワード博士、お願いしてもよろしいでしょうか。あなたの患者であるレンフィールドさんに会いたいんです。会わせてください。あなたの日記に彼について書かれていて、とても興味を惹かれたんです!」

彼女がとても熱心かつ魅力的だったので断ることができず、また断る理由もなかったので、彼女を連れて行った。僕は部屋に入ってから、件の男に、ある女性が会いたがっていると告げた。

「なぜです」と彼は簡潔に答えた。

「彼女は家中を見回っていて、全員と会いたいと言ってるんです」と僕は答えた。

「ああ、そうですか」と彼は言った。「ぜひとも来てもらってください。ただ、私が片付けるまで少し待ってくれますか」

その片付け方は独特で、止める間もなく箱の中のハエやクモをすべて飲み込んでしまった。干渉されることに対して、心配もしくは用心をしていることは明らかだった。不快な作業を終えると、彼は元気よく言った。

「ご婦人を通してください」

そして、ベッドの縁に腰を下ろしてうつむき、しかしまぶたを上げて、彼女が入ってくるのが見えるようにした。しばし、彼が殺意を抱いているのではないかと思った。書斎で僕を襲う直前の彼がどれほど落ち着いていたかを思い出し、彼が彼女に飛びかかろうとした場合すぐに捕まえられる場所に立つよう用心した。彼女は、どんな狂人でもすぐに尊敬の念を抱くような、くつろいだ優雅さを持ってして部屋に入ってきた──くつろいだ態度は、狂人が最も尊敬する資質の一つだからだ。彼女はにこやかに微笑みながら彼のところへ歩み寄り、手を差し出した。

「こんばんは、レンフィールドさん」と彼女は言った。「あなたのことは存じております。スワード博士からお聞きしましたから」

彼はすぐには答えず、顔をしかめたまま彼女のすべてをまじまじと見た。その表情が不思議そうな表情に変わり、やがて疑うような表情に変わっていった。そして、僕が激しく驚いたことに、彼はこう言った。

「博士が結婚したがってた娘さんはあなたじゃないでしょうね。彼女は死んだんだから、そんなはずはないでしょうね」

ハーカー夫人は優しく微笑みながら答えた。

「あら、違います! 私には夫がおりますし、スワード博士とお会いする前に結婚しておりました。ハーカー夫人と申します」

「では、ここで何をしているんですか」

「夫と私は、スワード博士を訪ねて滞在していますの」

「滞在すべきじゃない」

「どうしてかしら」

このような会話は、僕以上にハーカー夫人にとって不快かもしれないと思い、僕も話に加わった。

「どうして僕が結婚したいと思っていたのを知ってるんですか」

ハーカー夫人から僕へと視線を移し、すぐにハーカー夫人に目線を戻す間に口にされた彼の返事は、ただただ侮蔑的なものだった。

「なんて馬鹿げた質問なんだ!」

「レンフィールドさん、私には、そうは思えませんけれど」

ハーカー夫人はすぐに僕を擁護した。僕に対して示した軽蔑と同程度の礼儀と尊敬をもって、彼は彼女に答えた。

「ハーカー夫人、もちろんご理解いただけるでしょうが、この家の主人のように愛され尊敬を集めている人物がいると、彼に関することはすべてこの小さな共同体の関心事となるのです。スワード博士は家族や友人に愛されているだけではありません。精神的な均衡がとれておらず、原因と結果を歪曲する傾向がある患者たちにも愛されています。私自身も精神病院に入院していますが、入院患者の中には、因果関係における原因誤謬【訳注:non cause。哲学用語】や論点のすり替え【訳注:ignoratio elenchi。哲学用語】などの論理的誤謬に傾倒している者がいることに、気づかざるを得ません」

僕はこの新しい展開に目を見張った。お気に入りの狂人──それも僕がこれまで会った中で最も特徴的な症例──が、洗練された紳士のような態度で哲学の基礎を語っているのだ。ハーカー夫人の存在が、彼の記憶の琴線に触れたのだろうか。この新しい局面が自発的なものであれ、あるいは何らかの形での彼女の潜在的な影響によるものであれ、彼女は何かたぐいまれなる才能や力を持っているに違いない。

僕たちはしばらく話を続けた。彼が極めて理性的であるようだったので、彼女は僕を窺いながらも、彼の好きな話題に誘導しようと試みた。僕は再び驚かされた。彼は、まったく正気であるかのような公平な態度でその議題に取り組み、ある事柄について言及するときには、自分自身を例にとってさえいたのだ。

「私自身、奇妙な信念を持った人間の一例です。友人たちが心配し、私を管理下に置くよう主張したのも無理はありません。かつて私は、生命は絶対であり、永久する存在であり、どんなに下位の生命であっても、多くを摂取すれば、自らの生命を無限に延長できると考えていたのです。時には、その信念の強さ故、実際に人命を奪おうとしたこともありました。ここにいる医師が証言してくれますが、ある時、私はこちらの医師を殺そうとしました。彼の血を媒介にして、彼の命を私の体に同化させることによって、私の生命力を強化するためです──もちろん、聖書の《血は生命である》という言葉に基づいた行いです。とはいえ、とある薬品業者が、この真理の言葉を軽蔑に値するほど低俗化してしまいましたが。そうでしょう、先生?」

僕は頷いたが、あまりの驚きに、どう考えたらいいのか、どう言ったらいいのか、ほとんど分からなかった。五分前に蜘蛛やハエを食べ尽くすのを見たばかりの彼とは、とても思えなかったからだ。時計を見ると、ヴァン・ヘルシングに会うために駅に行かなければならないことがわかったので、ハーカー夫人にそろそろ去るべき時間だと告げた。彼女はレンフィールド氏に朗らかにこう声をかけたのち、すぐに場を離れた。

「さようなら、またお会いしましょう、あなたのお加減がもっと良いときに」

すると、驚いたことに、彼はこう答えた。

「さようなら、お嬢さん。あなたの素敵な顔を二度と見ることがないよう、神に祈ります。神のご加護がありますように!」

ヴァン・ヘルシングに会いに駅へ行く時、男連中は家に置いていった。哀れなアートはルーシーが病気を患って以来、一番元気そうだ。クインシーも長い間見なかった、明るい本来の姿を取り戻しつつある。

ヴァン・ヘルシングは、少年のようにすばやく客車から降りた。彼はすぐに僕を見つけ、駆け寄ってきてこう言った。

「ジョン君、色々と大丈夫かね。よさそうかな。よし! 必要とあらばこちらに滞在する予定を立てて、忙しくしていたのだ。私の仕事はすべて決着がついたし、話すこともたくさんある。ミナ奥様はご一緒かな。そうか。彼女の立派なご主人もご一緒かな。そしてアーサーとクインシー君もかね。よろしい!」

僕は馬車で家に向かいながら、これまでの経緯と、ハーカー夫人の提案で自分の日記が役に立つようになったことを話した。すると、教授は僕の言葉を遮った。

「あの素晴らしいミナ奥様だな! 彼女は男の頭脳──才能のある男が持つべき頭脳のことだ──と、女の心を持っている。この素晴らしい組み合わせは、善良なる神が目的を持って彼女を造ったからだろう。ジョン君、今まで幸運によりあの女性が我々の助けになっていたが、今晩以降はこのような恐ろしい事件に巻き込んではならない。彼女が大きな危険を冒すのはよくないことだ。我々男性陣は、この怪物を滅ぼすことを決意したが──いや、誓ったのだったね──この行為は女性の役目ではない。たとえ彼女に危害が及ばなくとも、あまりの恐怖に心を病むかもしれない。これから先、起きている間は神経を苦しませ、眠っている間は悪夢に苦しむかもしれない。それに、彼女は若い女性で、結婚してまだそれほど経っていない。今はそうでなくとも、いつかは他に考えることも出てくるだろう。彼女が全部の書類を書いたと言うなら、彼女は我々の協議に参加しなければね。しかし、明日、彼女にはこの任務に別れを告げてもらい、我々だけで立ち向かうべきだ」

僕は、彼の意見に心から同意した。そして、彼の留守中に発見したこと、つまりドラキュラが購入した家が僕の家のまさに隣家なのだと話した。彼は驚き、そして大きな懸念を覚えたようだった。

「ああ、もっと前から知っていれば!」と彼は言った。「そうすれば、哀れなルーシーを救うため、彼を捕まえるのに間に合ったかもしれない。しかし、君たち英国人が《こぼれたミルクを惜しんで嘆くな》と言うように、そんなことは考えずに最後までやり遂げることとしよう」

それから彼は沈黙し、その沈黙は僕たちが僕の家の門から入るまで続いた。僕たちが夕食の支度をする前に、彼はハーカー夫人に言った。

「ミナ奥様、こちらのジョン君から聞いたんだが、あなたとご主人は、この瞬間までのすべての出来事を、正確に順番に並べてくれたそうだね」

「この瞬間まで、ではありません、教授」と彼女は反射的に言った。「今朝までです」

「なぜ今この瞬間までではないのだろうね。我々はこれまで、すべての些事がどれほど良い結果をもたらすかを見てきた。我々は秘密を打ち明けたが、打ち明けたことにより悪い状況に陥った人はいないだろう」

ハーカー夫人は顔を赤らめつつ、ポケットから紙を取り出し、こう言った。

「ヴァン・ヘルシング博士、これをお読みになって、書類の山に加える必要があるかお教えください。私の今日の記録です。私も、どんな些事でも、すぐに書き留めておく必要性を感じています。でも、この中には個人的なこと以外はほとんど記載されておりません。加えるべきでしょうか」

教授はそれを注意深く読み通し、こう言って返した。

「あなたが望まないなら加える必要はない。しかし、加えてくれるよう祈るよ。この記録により、あなたの夫は更にあなたを愛し、あなたの友人である我々は、より一層あなたを尊敬し、愛するようになるだろうからね」

彼女はまた顔を赤らめて、晴れやかな笑顔でそれを受け取った。

そして今、まさにこの時間まで、僕たちが持っているすべての記録が揃い、順番に並んでいるのだ。教授は夕食後、九時に予定されている会議の前に熟読するため、一部写しを持って行った。他の者はすでに通読しているので、書斎で会うときには全員が事実関係を把握しており、この恐ろしく不可思議な敵との戦いの計画を立てられるだろう。

ミナ・ハーカーの日記

九月三十日

夕食の二時間後、六時にスワード博士の書斎に集まったとき、私たちは無意識のうちに一種の審議会か委員会のようなものを結成していた。ヴァン・ヘルシング教授は部屋に入ってくるなりスワード博士に促され、テーブルの端に座った。私は教授の右隣に座り、書記をするよう申し付けられた。ジョナサンは私の隣に座った。私たちの反対側には、ゴダルミング卿、スワード博士、モリス氏が座った──ゴダルミング卿は教授の隣、スワード博士が中央にいた。

教授がこう言った。

「我々はこの書類に書かれている事実をすべて把握していると考えてよいだろう」

私たちは皆、同意の意を表した。彼は続けた。

「それなら、我々が相手にしなければならない敵の性質を話しておくのがよいだろう。そして、私が確認した奴の経歴を、君たちにお知らせしよう。そうすれば我々は、どのように行動すべきかを議論し、それに応じた対策を講じられる。

「ヴァンパイアという物が存在し、我々の中にはヴァンパイアが存在する証拠を持っている者もいる。我々自身の不幸な経験という証拠がなくとも、過去の教えや記録が、正気の人々にとっても充分な証拠となる。私も最初、懐疑的であったことを認めよう。長い間、常識にとらわれない訓練をしてこなかったら、事実が《ほら! ほら! 証明できるぞ、証明できるぞ》と耳に飛び込んでくるまで、信じることができなかっただろう。悲しいかな、もし私が今知っていることを最初に知っていたら──いや、彼について推測さえしていたら──彼女を愛していた我々の多くにとって、とても貴重な命が、一つ救われていたことだろう。しかし、それは既に終わったことだ。我々は、我々が救うことのできる他の哀れな魂が滅びないように、努力しなければ。ノスフェラトゥは、蜂と違って一度刺しただけでは死なない。より強くなるだけであり、より強くなることで、さらに多くの悪事を成せるようになる。我々に紛れているこのヴァンパイアは、二十人の男に匹敵するほど強い。彼は人間以上に狡猾であり、その狡猾さは歳月をかけて培われたものだ。彼はネクロマンシーという手段を持っている。ネクロマンシーとは、語源が示すように、死者による予言であり、彼が近づく全ての死者は彼の思いのままになる。野蛮でありながら、野獣以上の存在だ。悪魔のように無慈悲であり、心が無い。制限内でなら、いつ、どこで、どんな形でも意のままに出現できる。能力の範囲内でなら、嵐、霧、雷などの自然現象を操れる。ネズミ、フクロウ、コウモリ、蛾、キツネ、オオカミなどの卑しいものに命令できる。彼は大きくなったり小さくなったりする。そして時に姿を消し、知らぬ間に現れることがある。では、どのようにして彼を倒すための戦いを始めればよいのだろうか。どうやって居場所を見つけ、そして居場所を見つけた後、どうやって倒すのだろう。友よ、これは大変な任務だ。我々が取り組むのは恐るべき任務であり、勇敢な者を震え上がらせるような結果が待っているかもしれない。もしこの戦いに失敗したら、彼は必ず勝つだろう。そうしたら我々はどうなるのだろう。命などどうでもいい。命のことなど知ったことではない。ここで失敗すると、単なる生死では終わらないのだ。失敗は、我々が彼のようになることを意味する。我々が今後、彼のように夜に棲む穢らわしいものとなること──心も良心もなく、最も愛する者の身体と魂を捕食するものとなることだ。我々に対して天国の門が永遠に閉ざされるのだ。誰が再び門を開いてくれるというのか。我々は永遠にすべての人から忌み嫌われ、神の輝きの汚点となり、人間のために死んだ神【訳注:キリストのこと】の脇腹に放たれた矢となる。しかし、我々には責務がある。責務があるのにひるむべきだろうか。私にとってはそうではない。しかし、私は年寄りであり、太陽、美しい土地、鳥の歌、音楽、愛などが含まれた人生は、はるか過去のものだ。君たちは若い。ある者は悲嘆に暮れたことがあるが、この先にまだ幸福な日々が待っている。どうするかね」

彼がそう言っている間に、ジョナサンが私の手を取った。その手が伸びてきたとき、脅威の特性がジョナサンの精神に打ち勝ってしまったのではと心配した。しかし、彼の手の感触を感じることは、私にとって重要なことだった──とても強く、とても頼もしく、とても毅然とした手だった。勇敢な男の手は自ら語ることができ、その調べを聞くために女の愛を必要とすることさえないのだ。

教授が話し終えたとき、夫は私の目を、私は夫の目を見た。私たちの間に会話は必要なかった。

「ミナと僕は応じます」と彼は言った。

「教授、俺も頭数に入れてくれ」とクインシー・モリスさんはいつものように簡潔に言った。

「私も君たちと一緒だ」とゴダルミング卿は言った。「仮に他の理由がなかったとしても、ルーシーのために応じよう」

スワード博士はただ頷いた。教授は立ち上がり、金色の十字架をテーブルの上に置いてから、左右に手を差し出した。私は教授の右手、ゴダルミング卿は教授の左手を取った。ジョナサンは左手で私の右手を取り、モリスさんの方に手を伸ばした。こうして、私たちは手を取り合って、厳粛な誓いを立てたのだ。心が凍りつくような思いがしたが、引き下がろうとは思わなかった。私たちはそれぞれの席に戻り、ヴァン・ヘルシング博士は真剣な仕事が始まったことを示すように、ある種の陽気さを持って話を進めた。この使命は、人生の他の取引と同じように、重々しく、そして業務的に受け止めるべきものだった。

「さて、我々が何と戦わなければならないか分かったろう。しかし我々も無力ではない。我々の側には団結力がある──ヴァンパイアの類にはない力だ。我々には科学による情報源がある。自由に行動し考えることができるし、昼も夜も等しく我々のものである。実際、我々の力が及ぶ限り、我々の力は自由であり、自由に使うことができる。大義に対して献身できるし、利他の目的を達成することができる。これらのことが重要なのだ。

「さて、我々に立ちはだかるヴァンパイアに一般的な力が、どこまで制限されているのか、そして、彼個人はどれだけ無力かを見てみよう。つまり、一般的なヴァンパイアの限界と、特にこのヴァンパイアの限界について考えてみよう。

「我々が拠り所とするのは伝説と迷信だけだ。生と死──いや、生と死以上の問題である以上、これらの拠り所は一見、心もとなく思えるだろう。しかし、これに満足しなければならない。第一の理由は、満足せざるを得ないからだ──他に我々が拠り所とできる手段がないからだ。第二の理由は、結局のところ、これらのもの──伝説と迷信──がすべてと言えるからだ。他者にとって──残念なことに我々には当てはまらないが──ヴァンパイアを信じることは伝統と迷信の上に成り立っているのだ。一年前、科学的で、懐疑的で、真実に重きを置く十九世紀の真っ只中にいた我々のうちの誰が、吸血鬼が存在する可能性を受け入れただろう。我々は、目前で確信された事実をすら、疑ってかかっていたのだから。つまり、ヴァンパイアの存在と、ヴァンパイアの能力の限界と対応策は、今のところ同じ伝説と迷信という土台の上に乗っているのだ。ヴァンパイアは、人間の居住する所ならどこにおいても知られている。古代ギリシアでも、古代ローマでも。ドイツ全土で、フランスで、インドで、ケルソネソスでさえも、彼は繁栄した。中国はあらゆる意味で我々から遠く離れているが、そこにもヴァンパイアは存在し、人々は今もなおヴァンパイアを恐れている。ヴァンパイアは、アイスランドの戦士、悪魔の血を引くフン族、スラブ人、ザクセン人、マジャール人に後続するものなのだ。ここまでで、我々がすべきことはすべてわかった。そして、この伝説と迷信の多くは、我々自身のあまりに不幸な経験を通して見たものによって証明されていることをお伝えしよう。ヴァンパイアは生き続け、単なる時間の経過では死ぬことはない。生者の血で肥えられれば、彼は繁栄できる。さらに、我々の中には、彼が若々しくなることさえあるのを目の当たりにしたものもいる。彼の生命力は、彼の特別な食料が潤沢にあるときに活発になり、まるで自らを蘇らせたかのように見えるのだ。しかし、彼はこの食事なしでは栄えることができず、さらには人のようには食べられない。彼と何週間も一緒に暮らしたジョナサン君でさえ、彼が食べるのを見たことがない。一度もだ! 彼は影を落とさない。再びジョナサンの観察によると、鏡にも映らない。彼は強い力を持っている──オオカミに対して扉を閉めたとき、また不注意から力を出してしまったときに、再びこれもジョナサンが目撃した。船がウィトビーに到着し、彼が犬を噛み裂いたときのことから分かるように、彼はオオカミに変身できる。ミナ奥様がウィトビーの窓で見たように、またジョン君が彼の家の隣家であるこの家から飛ぶのを目撃したように、そしてクインシー君がルーシー嬢の窓で見たように、彼はコウモリになれる。彼は自分が作り出した霧の中から出現できる──あの気高い船長がこのことを証明した。しかし、我々が知るところでは、彼がこの霧を作り出せる距離は彼自身の周りに限られている。彼は月光とともに塵としてやってくる──これもジョナサンが、ドラキュラ城であの姉妹を見たときのように。ヴァンパイアはとても小さくなる──我々は、安らかな眠りにつく前のルーシー嬢が、墓の扉の髪毛ほどの隙間をすり抜けるのを見た。彼は一度道を見つけると、どんなものから出てくることも、どんなものの中に入ることもできる。たとえそれがどんなに緊密に閉められていても、あるいは火で焼き固められていたとしてもだ──これはつまりはんだ付けのことだ。彼は暗闇で目が見える。これは、半日が光から遮断されているこの世界では、瑣末な力ではない。ああ、しかし、最後まで聞きなさい。彼はこれらすべてのことを行うことができるが、自由ではない。いや、ガレー船の奴隷よりも、牢屋の狂人よりも、いっそう囚われていると言えよう。彼は自分の望むところへ行けない。自然のものでないのに、自然の法則のいくつかにまだ従わなければならない──なぜかはわからないが。初めに家の者に招かれない限り、どこにも入れない。しかし、一度招かれた後は思うままに入れる。彼の力は、すべての邪悪なものの力と同様に、夜明けとともに消滅する。特定の時間にのみ、特定の自由を持てるのだ。彼が縛り付けられている土地以外では、正午、および厳密な日の出や日没の時でのみ姿を変えられる。以上のようなことが伝えられている。我々の記録にも、推論による証拠がある。つまり、彼の地上の家や、棺の家や、地獄の家や、あるいは我々が目撃したウィトビーの自殺者の墓のような神聖でない場所などでは、彼は制限内で思うように立ち動ける。それに対して他所では、限られた時に姿を変えられるのみなのだ。また、干潮か満潮の時だけしか流水の上を通過できないとも言われている。そして、彼を苦しめて何の力も発揮できなくするものがある。我々が知っているニンニクのように。また、我々の決意表明に使われた、十字架の象徴のような神聖なものに対して、彼は無力であり、遠く避けた上で敬意をもって沈黙するのみとなる。他にもある。我々の探求に必要であるかもしれないので、お話ししよう。棺の上に野バラの枝を置くと、彼を封じることができる。聖なる弾丸を棺に発射すると、彼は死に、真の死者となる。貫く杭がもたらす安息を、すでに我々は知っている。あるいは首の切断も彼に安息を与えるだろう。これらは我々も目撃したものだ。

「こうして、かつて人であった彼の住処を見つけさえすれば、我々の知識に従い、棺桶に閉じ込めて倒せる。しかし、彼は賢い。ブダペスト大学の友人であるアルミニウス君に、彼の記録をまとめることを依頼した。そしてアルミニウス君は、あらゆる手段を使って彼の過去を私に教えてくれた。彼は、トルコ国境の大河の向こうで、トルコ人に勝利してその名を馳せた、あのヴォイヴォダ・ドラキュラ【訳注:Voivode、軍司令官】に違いない。そうだとすれば、並みの人間ではなかったのだ。当時、及びその後何世紀にもわたり、《森の向こうの国》の息子たちの中で最も賢く、最も狡猾で、最も勇敢な人物として語られてきた人物なのだから。その強力な頭脳と確固たる意思は墓場まで彼と共にあり、今なお我々に敵対している。アルミニウスによれば、ドラキュラ族は偉大で崇高な一族であったが、その子孫たちは悪魔と取引していたと思われていたそうだ。子孫たちは、ヘルマンシュタット湖の向こうの山中にあるショロマンスで悪魔の秘密を学び、悪魔は十人めの生徒を報酬として要求したそうだ。記録には、stregoica──魔女、ordogとpokol──サタンと地獄、といった言葉があった。ある書物では、まさにドラキュラがwampyrとして語られており、この言葉の意味は我々全員が充分に理解しているものと同じだ。この一族が偉大な男や善良な女を生み出したのだ。この穢らわしいものが唯一住める大地は、彼らの墓により神聖な地となっているのだ。このように邪悪なものが善良なものに深く根を下ろしているのは、恐怖に値することだ。神聖な記憶のない土壌では、彼は安住できないのだよ」

彼らが話している間、モリスさんはじっと窓を見ていたが、静かに立ち上がって部屋から出て行った。しばし静寂が訪れ、そののちに教授は言葉を続けた。

「さて、どうするか決めねばならない。我々は多くの情報を持っている。作戦を立てなければならないだろう。ジョナサンの調査により、城からウィトビーまで五十箱の土が運ばれてきて、そのすべてがカーファックスで引き渡されたことがわかっている。また、少なくともその箱のうちのいくつかは持ちだされたことも判明している。我々の取るべき第一歩は、ここから見える塀の向こうの家に、残りの箱すべてが残っているか、あるいは更に持ち出されたかを確認することだろう。もし更に持ち出されたのなら、追跡しなければならない──」

ここで、驚愕すべき方法で私たちの会議は中断された。家の外でピストルの銃声がしたのだ。窓のガラスは弾丸で砕かれ、朝顔口【訳注:壁に朝顔状に開けた窓】の上に跳ね返って部屋の奥の壁に当たった。自分は臆病者だと心から思う、なぜなら悲鳴をあげてしまったからだ。男性方は皆、すぐさま立ち上がった。ゴダルミング卿は窓際に飛んで行って、窓枠を跳ね上げた。その時、モリスさんの声が外から聞こえた。

「すまない! 驚かせたなら悪かった。入ってから説明させてくれ」

一分後、彼は入ってきて言った。

「ハーカー夫人、バカをして本当に申し訳ない。すごく怖がらせちまったね。でも実は、教授が話している間に大きなコウモリがやってきて、窓枠に留まったんだ。最近の出来事から、あの忌まわしい畜生が恐ろしくってね、このところ夕方に奴を見かけては撃っていたのさ。で、今も同じく撃ちに行ったってわけだ。アート、こうするたびにお前によく笑われたよな」

「当たったのかな」とヴァン・ヘルシング博士が聞いた。

「さあ。当たってないと思うね、森に飛んでったから」

彼はそれ以上は何も言わずに席に座り、教授は話を再開した。

「箱のそれぞれを追跡し、準備ができたら、この怪物をその根城で捕えるか殺すかしなければならない。言い換えると、土を浄化して、安息の場所に逃げ込めないようにしなければならない。最終的には、正午から日没の間に人間の姿の彼を見つけ出し、最も弱っているときに交戦することにしよう。

「そして、次はミナ奥様、あなたについてだ。すべてがうまくいくまでは、本件に関わるのは今夜限りとさせてくれないかね。あなたは、我々にとってあまりにも大切な人なので、危険を冒させられない。今夜解散した後は、何も質問しないように。いずれあなたにすべてを話すだろう。我々は男なので耐えられる。しかし、あなたは我々の星であり、我々の希望でなければならないのだ。あなたが我々のような危険にさらされていないことを確信してこそ、自由に行動できるのだ」

この提案に、ジョナサンも含めて全員が安心したようだった。危険に立ち向かいながらも、私を慮るあまり、万一の身の安全を損なうことになるのは──協力し強くあることこそが一番の安全だから──良いこととは思えなかった。しかし彼らの心は決まっていたので、私にとっては呑み込み難かったが、彼らの騎士道精神を受け入れる以外何も言えなかった。

モリスさんが議論を再開した。

「一刻の猶予もないんだ、今すぐ奴の家を見に行こう。一刻を争う相手だ。俺たちの迅速な行動で、新たな犠牲者を救えるかもしれない」

行動の時がこんなにも早いことに、胸が張り裂けそうになったのは事実だが、何も言わなかった。彼らの仕事の足を引っ張ったり、邪魔になったりして、話し合いから完全に外されることを恐れたからだ。彼らは今、家に入る手段を備えてのち、カーファックスの家に向かっている。

彼らは男らしく、ベッドで眠っていなさいと言っていた。まるで、愛する者が危険にさらされているときに、女が眠れるかのように!

横になって寝たふりをし、ジョナサンが戻ってきたときに、私のことで更なる心配をかけないようにする。

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